更新日:2019年11月15日
1 薬剤耐性アシネトバクター感染症とは
薬剤耐性アシネトバクター感染症は、通常のアシネトバクター感染症の治療に使用する抗菌薬である広域β-ラクタム剤、アミノ配糖体、フルオロキノロンの3系統の薬剤に対して耐性を示すアシネトバクター属菌による感染症です。
アシネトバクター感染症は、健康な人が発症するのは稀であり、免疫が低下した人などが発症するいわゆる日和見感染症です。
2 原因と感染経路
アシネトバクターは細菌の一種で、モラクセラ科アシネトバクター属に分類されます。アシネトバクター属には多くの種があり、その全てがヒトに対して病気を引き起こす可能性があります。土壌や水など環境中に生息している菌で、健康な人の皮膚からも検出されます。
主な感染経路は接触感染です。呼吸器感染症をきたした場合は、そこから飛沫感染の形で伝播する可能性があります。主に細菌感染症に対する抵抗力が低下した入院患者などが感染し、特に人工呼吸器を使用している重症患者、長期入院患者、開放創がある患者は、感染の危険性が高くなります。
薬剤耐性アシネトバクターは通常のアシネトバクターの治療に使用されている抗菌薬がほとんど効きません。手洗いや消毒が不完全であると、汚染された医療器具や医療従事者の手などを通じて院内感染を起こすことになります。
3 症状
アシネトバクターは肺炎から敗血症*まで様々な疾患の原因となり、症状も多彩です。入院している患者では、発熱など感染を疑わせる兆候が見られないのに、気管切開創や開放創などにアシネトバクターが生息していることもあります。
- * 敗血症:血液中に細菌が侵入したことにより引き起こされる感染症によって全身性の反応が起こることをいいます。典型的な全身性の反応として、発熱、脱力、心拍数の増加などがみられます。
4 治療
治療は菌の薬剤感受性及び感染した人の病態に合わせて行われます。
5 予防のポイント
健康な人への感染はほとんど心配ありませんが、病院に入院している人を見舞うなどの際には、手洗いと消毒をしっかり行うようにしましょう。
院内感染対策として、ドアノブ、手すりなど手が触れる場所の清掃・消毒により院内の環境を清潔に保つことや、人工呼吸器などの医療器具の消毒や手洗いを徹底することが重要です。
免疫機能異常、慢性肺疾患、糖尿病など基礎疾患を持っている方は、基礎疾患の治療を適切に行うことも感染予防のために大切です。
6 診断・感染症法との関係
診断は、病原体を検出し、その薬剤耐性を確認して行います。
感染症法では、五類感染症(全数把握対象)として定められており、診断した医師は7日以内に最寄の保健所へ届け出ることが義務づけられています。
7 その他の関連情報
- 多剤耐性菌について(厚生労働省)
- 多剤耐性アシネトバクター感染症(国立感染症研究所)
- 多剤耐性アシネトバクター感染症 Q&A(国立感染症研究所)
- About Acinetobacter(CDC)