更新日:2019年10月3日
1 炭疽とは
炭疽は、細菌の一種である炭疽菌による感染症です。伝染病統計によると、1974年以降国内での感染は見られなくなり、1994年以降の報告はありません。
中南米、サハラ以南のアフリカ、中央~南西アジア、南ヨーロッパ及び東ヨーロッパで発生がみられます。
かつて生物テロとして炭疽菌が用いられたことがあり、2001年に米国で粉と一緒に炭疽菌を同封した郵便物が送られた事例があります。
2 原因と感染経路
病原体は、炭疽菌(Bacillus anthracis)です。
炭疽菌は動物の体内で増殖しますが、環境中では芽胞という熱や乾燥に強い形態になり長時間生存します。
炭疽菌に感染した動物の血液、体液、死体などに汚染された土壌が傷に入ることで感染(創傷感染)します。また、感染した動物の肉の摂食による感染(経口感染)、あるいは菌を吸入することによる感染(吸入感染)があります。ヒトからヒトに直接感染することはありません。
3 症状
潜伏期は1~7日程度です。主な病型に皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽があります。どの病型でも治療しないと死亡することもあります。
皮膚炭疽
自然感染による炭疽の95%以上が皮膚炭疽です。皮膚に触れただけで感染することはほとんどなく、傷から体内に菌が取り込まれることによって感染します。まず痒みがおこり、続いてイボ状のできものができ、それが水ぶくれになって大きくなり、えぐれて潰瘍になり、最後にはくぼんで硬い黒いかさぶた状のものができます。
腸炭疽
菌で汚染された食肉の摂取により感染するもので、悪心、嘔吐、発熱などの初期症状に続いて、腹痛、吐血、激しい下痢、血便へと症状が進みます。
肺炭疽
吸入した菌により発症しますが、自然環境では発病するのに必要な菌数を吸入しないため、発生は極めてまれです。
インフルエンザ様の初期症状で始まり、呼吸困難や嘔吐へと症状が進みます。
4 治療
治療には抗菌薬であるペニシリン、クラリスロマイシン、テトラサイクリン、クリンダマイシン、ニューキノロン等が有効です。ただし、ペニシリンは感受性があれば使用は可能ですが、ペニシリナーゼ産生株の報告があるため、単剤での治療は勧められていません。通常はシプロキサンやドキシサイクリン等を使用します。
5 予防のポイント
ワクチンは、副作用の問題などがあり我が国では未承認です。
炭疽菌による曝露が明らかな場合には、発症前に抗菌薬による治療を行うことが効果的です。
流行地においては動物に近づくことを避け、肉や臓器、皮や毛などに触らない、安全が確認できない肉などは食べるのを避けましょう。
6 診断・感染症法との関連
診断は、病原体の検出、あるいは遺伝子の検出によります。
感染症法では、四類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄の保健所へ届け出ることが義務づけられています。
7 さらに詳しい情報が必要な方は
- 炭疽とは(国立感染症研究所)
- 炭疽 Anthrax(厚生労働省検疫所 FORTH)
- Anthrax(CDC)
- Anthrax(WHO)