SARSの感染拡大経路の調査が各国で進んでいるが、多くの人への感染拡大の感染源となった患者の存在が明らかになってきた。この特定の患者がスーパー・スプレッダーと呼ばれている。
アメリカCDC・MMWRには、シンガポールにおける5人のスーパー・スプレッダーについてまとめられている。(10人以上への感染拡大の感染源となった患者がスーパー・スプレッダーと定義されている。)
4月30日現在201例のSARS症例がシンガポールで報告されているが、172例(約86%)が図1に示されている患者1から感染が波及したものである。事例の多くはSARSに関する情報が不足している状況で、病院内での感染(医療従事者・家族・見舞い客への感染)を中心にして発生したものである。
どの様な人がスーパー・スプレッダーとなりやすいのか現時点では不明であるが、シンガポールでは病院内での感染防御対策の強化等を通じた対策で、症例報告数は減少している。病院内での適切な感染防御対策が講じられた状況では、スーパー・スプレッダーは出現しにくいと考えられる。
またシンガポールで約81%の症例からは2次感染は発生しておらず、2次感染が発生している場合でも3人までが大部分である。(図2)スーパー・スプレッダーが感染拡大の大きな役割を果たしていることが解る。
病院内での適切な感染防御対策によりスーパー・スプレッダーの出現を防ぐことが、SARS対策で重要であることが示唆されている。
図1 シンガポールにおけるSARSの感染拡大(2003年2月25日~4月30日) |
患者1 年齢は22歳。2月下旬香港を訪れ20日?25日までホテルMに滞在した。その後症状が出現し、3月1日シンガポールでTTS病院に入院した。この患者から21人の症例(9人の医療従事者と12人の家族・見舞い客)へ直接感染が拡大した。
患者6 年齢は27歳、看護婦。TTS病院で患者1の看護をした。その後症状が出現し3月10日に同病院に入院した。この患者から23人の症例(11人の医療従事者と12人の家族・見舞い客)へ直接感染が拡大した。
患者35 年齢は53歳。糖尿病と虚血性心疾患を有し、下痢を伴った敗血症で3月10日TTS病院に入院した。入院先の病室が患者6と同室だった。この患者から23人の症例(18人の医療従事者と5人の家族・見舞い客)へ直接感染が拡大した。
患者130 年齢は60歳。慢性腎不全と糖尿病によりTTS病院に3月5日から20日まで入院。3月24日にSG病院にステロイド性胃炎と下血のため入院。この患者から少なくとも40人の症例(医療従事者・見舞い客等)へ直接感染が拡大した。
患者127 年齢は64歳。野菜商で3月31日にSG病院に患者130を訪問している。虚血性心疾患と左心不全の既往がある。4月5日咳等の症状出現し8日NU病院に入院し、9日TTS病院に転院した。この患者から12人の症例(医療従事者、入院患者、家族・見舞い客、乗車したタクシーの運転手、市場での同業者)へ直接感染が拡大した。
図2 シンガポールにおけるSARS症例からの2次感染発生数(2003年2月25日~4月30日) |
横軸が2次感染発生数を示す。0は2次感染が発生しなかったことを示し、162人の症例からは2次感染が発生しなかったことが解る。