1996年1月(第17巻、1号)
昨年、アフリカのザイ−ルでの流行が報道され、その後、映画、テレビ等でのウイルス病への関心の高まりのきっかけになった感のあるエボラ出血熱の流行が再び発生した。今回の流行地は中央アフリカのガボンであるが、以下、WHO等の資料を基に、その概要についてまとめてみた。
本流行が最初に確認されたのは、ガボンの首都リブルビルの東400Kmにある人口50人の離村マイブⅡ村で発生した患者が、州都マコクの病院に入院した2月5日以降のことである。この患者はその10日程前(1月26日)にチンパンジ−を食用にしており2月7日に死亡した。その後、2月23日現在までにマスク病院に入院した20名がエボラ出血熱であることが 確認されていおり、更にマイブII村に隔離されている7名が同疾患を疑われている。また、患者に付き添って病院を訪れ、死亡した患者の死体を村に持ち帰って埋葬する作業を手伝った近隣の2つの村の住民数人も調査の対象になっている。
診断された20名のうち13名は死亡、7名は回復過程にある。死亡した13名中12名は死んだチンパンジ−の血液に直接接触したことが確認されているが、13番目の死亡者は生後6か月の小児であった。患者達は同疾患の症状として知られている高熱、出血性下痢、眼球の発赤等の症状を呈していた。
症状及び現地の臨床検査でえぼら出血熱が疑われていたが、パリのパスツ−ル研究所に送られた試料からウイルスが分離されて最終的に確認された。昨年のザイ−ルの事件で、治療にあたった医療関係者に多数発生した二次感染の有無が今回も問題であるが、2月5日の初発患者の入院以来2月23日の時点では、病院関係者には感染の徴候を示すものは見られていない。
ガボン政府はWHOに協力を依頼するとともに、国民に同疾患の流行について報道し、森で死亡している動物に触れないよう、また行動に異常のある動物を食用に屠殺しないよう警告した。マイブII村の付近の森ではチンパンジ−、ゴリラ、カモシカ、ヤマネコ等の動物の死体も確認されている。
昨年のザイ−ルでの流行では計316人の感染が確認され245人(77%)が死亡したが、今回のガボン例では流行の規模はそれよりは限定されそうな見込みである。その理由としてWHOの担当者は以下のことを上げている。
- ガボン保健省の迅速な対応。保健省は流行の初期(病原体が未だ確認されない時点)に事態の重要性を認識すると、ただちに発症者及び感染の疑われる者を隔離させた。この処置が二時感染者を減少させた。
- 大規模な情報キャンペ−ン。保健省の発行している新聞は同疾患、その感染経路及び感染の予防について具体的に国民に知らせた。
- 昨年のザイ−ルでの流行は人口40万人の都市で発生したが、今回のガボンの流行は人口の少ない隔離された離村で発生した。
WHOは今回の事件に関連して、ガボンを含む中央アフリカの国々への旅行制限は勧告しないし、感染の疑われる患者の隔離が完全に行われれば検疫も必要ないだろうとしている。
微生物部ウイルス研究科