1995〜96年冬季節、東京都におけるインフルエンザの流行(第17巻、2号)
1996年2月
1995〜96年冬季の東京都におけるインフルエンザの流行について、主に都立衛生研究所で実施した病因検索結果に基づき概要を以下報告する。
東京都における今冬季のインフルエンザ様疾患による集団かぜは、1995年12月上旬に練馬保健所管内の小学校で発生した事例が初発であった。これら患者5名のうがい液のうち1件からAH1(Aソ連)型ウイルスが検出された。また、血清学的試験の結果、全例に同型ウイルス抗原株に対して64倍以上の抗体価の有意上昇を認め、本事例はAH1型ウイルスによる集団例であることを確認した。この集団発生以降、12月に7集団、1996年1月に16集団、2月に5集団の合計29集団例の発生報告があり、引き続きこれらについてもウイルス分離試験並びに血清学的試験を行った。その結果は表に示した通りである。
今冬季、東京都において最初にインフルエンザウイルスが検出されたのは、前述の練馬保健所管内の小学校で発生した事例由来のAH1型ウイルスであったが、時期をほぼ同じくして発生した八王子市内の小学校での事例ではAH3(A香港)型ウイルスが検出された。それ以後、1996年2月下旬までにAH1(Aソ連)型ウイルスによる事例が合計9集団(血清学的診断のみによるもの3集団)確認された。また、AH3(A香港)型ウイルスによる事例は16集団でこのうち6集団は血清学的診断により確認された。この他、1996年1月下旬に発生した2事例はウイルスを分離することはできなかったが、補体結合反応(CF)ではA型抗原に対し抗体価の有意上昇が認められ、A型ウイルスによる感染事例であったことは確認できたものの、赤血球凝集抑制試験(HI)による型別試験で、AH1型あるいはAH3型のいずれであるのか、現在のところ型別ができていない。また、1995年12月中旬の1例、及び96年2月下旬の1例は病因を明らかにすることが出来なかった。
以上のように東京都における今冬季の集団かぜの流行は、期間の前半はAH1型及びAH3型ウイルスによる混在流行であったが、1月下旬を境にAH3型ウイルスに移行したものであった。なお、B型ウルスによる事例は認められなかった。
当研究所では、これまでインフルエンザウイルスの分離は発育鶏卵培養法と継代細胞培養法を併用して行ってきている。しかし、近年分離されるAH3型ウイルスは前者の方法ではほとんど分離不可能であり、もっぱら後者に頼っていた。ちなみに、東京都で前季に分離された本ウイルスは、すべて継代細胞培養法由来であった。しかし、今季では16事例のうち4例からAH3型ウイルスが発育鶏卵培養法によって分離され、再び、流行株が変異しこれまでの株と生物学的性状を多少異にしている可能性が高いことを示唆している。また、今回の流行時期から、インフルエンザウイルスの検索にもPCR法を導入するため、本法に着手したが、まだ、十分実用に耐えるまでに至っていない。しかし、上記の検査材料の中で、従来の分離法でウイルスが分離できなかったものの中から、PCR法で陽性となったものが認められている。
一方、厚生省保健医療局エイズ結核感染症課の報告によれば全国の集団発生の患者数は前年同期に比べ約1/4(188,327 人/831,527 人)に減少している。また、東京都おいても、集団発生の患者数は約半数以下 (60,572人/26,058人)に減少しており、今季のインフルエンザの流行規模はそれ程大きなものではなかったことを窺わせた。なお、全国における流行ウイルスは、AH1型が主でそれにAH3型ウイルスが加わったもので、B型ウイルスは僅かであった。ちなみに全国における検出ウイルス数は、AH1型:3,362 株、AH3型:168 株、B型:3株であった。
微生物部 ウイルス研究科 山崎 清
1995〜96年冬季、東京都における集団かぜ患者の病因検索 ──────────┬────┬─────────────────────── │ │ 診 断 結 果 発生年月旬 │検索対象│─────────────────────── │集団例数│ インフルエンザウイルス │ │─────────────────── 不明 │ │ AH1型 AH3型 A(亜型?) ──────────┼────┼─────────────────────── 1995年12月 上旬 │ 4 │ 3 1 − − 中旬 │ 3 │ 1(1) 1(1) − 1 下旬 │ 1 │ 1(1) − − − 1996年 1月 上旬 │ − │ − − − − 中旬 │ 6 │ 3(1) 3(1) − − 下旬 │ 10 │ 1 7(3) −(2) − 1996年 2月 上旬 │ 2 │ − 2(1) − − 中旬 │ 1 │ − 1 − − 下旬 │ 2 │ − 1 − 1 ──────────┼────┼─────────────────────── 合 計 │ 29 │ 9(3) 16(6) −(2) 2 ──────────┴────┴─────────────────────── ( )内は血清学的試験により確認された集団事例数再掲