平成7年の食中毒発生状況について(第17巻、9号)
1996年9月
本欄に年1回定期的に前年の食中毒発生状況を紹介してきたが、今年は5月下旬から始まった腸管出血性大腸菌O157 による食中毒・感染症の全国的な多発と多くの混乱により、その紹介も大幅に遅れる結果となってしまった。遅れながら、本号では厚生省生活衛生局食品保健課並びに東京都衛生局生活環境部食品保健課でまとめられた平成7年の食中毒統計資料に基づき、全国及び東京都における食中毒事件の発生状況についてその概要を紹介する。
平成7年に全国で発生した集団食中毒事件の総数は699 件、患者数は26,325名であった。平成7年の事件数は、事件の多かった平成6年の830 件に比較して15% 程度減少してはいるが、平成4年(557件) 、5年(550件) に比べればまだ多い状況にある。一方、患者数は平成6年の35,735名に対して26% 減少しているが、平成5年の25,702名より多い。
事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒は全体の80.3% を占め、第1位は腸炎ビブリオの245 件 (35.1%)で、事件数の多かった平成6年(224件) を更に凌いでいる。腸炎ビブリオによる食中毒の発生は気温に大きく左右されるのが特徴で、平成7年の多発も前年と同様に猛暑がその主因であろう。第2位は、平成元年以来急増したサルモネラが依然多く179 件(25.6%) で食中毒統計に記載のある昭和27年以来最高の事件数であった平成6年の205 件に次ぐ多さである。更にその患者数は7,996 名(30.4%) で原因物質別患者数で最も多く、このサルモネラ患者数が最も多い傾向は平成3年以来続いている。以下細菌性食中毒の事件数は、黄色ブドウ球菌60件(8.6%)、カンピロバクタ−20件(2.9%)、病原大腸菌20件(2.9%)、ウエルシュ菌20件(2.9%)、セレウス菌11件(1.5%)、ボツリヌス菌3件(0.4%)の順である。
動物性自然毒による食中毒は35件(5.0%)、患者数57名(0.2%)で、平成6年の20件(患者数36名)に比較してその事件数は1.8 倍に増加している。これは、ふぐによる食中毒が30件(患者数42名)と異常に多かったことによる。一方、植物性自然毒は28件(4.0%)で、異常に多かった前年(81 件) とは異なり、過去10年間で最も少ない件数であった。死亡例は、動物性自然毒(フグ)で2名、植物性自然毒(きのこ)、サルモネラ(血清型Enteritidis )、黄色ブドウ球菌で各1名の計5名であった。
一方、東京都における食中毒の発生状況は、事件数が80件(患者数2,444 名)で平成6年の84件(患者数2,747 名)よりやや少ないが、平成3年〜5年が53件〜65件であったのと比較すれば相変わらず多い状況にある。原因物質は全国の発生状況とほぼ同じ傾向を示している。細菌性食中毒事件数は64件で、第1位は腸炎ビブリオの29件(患者数504 名)、第2位はサルモネラで22件(患者数1,014 名)、以下黄色ブドウ球菌5 件、ウエルシュ菌3件、カンピロバクタ−とセレウス菌が各2件、病原大腸菌(毒素原性大腸菌O148:H28)が1件の順である。しかし、患者数ではサルモネラが1,014 名で第1位であり、事件数で1位の腸炎ビブリオの患者数の2倍近い数である。
動物性自然毒による食中毒は3件(患者数3名、死亡1名)、いずれもふぐによるもので、全例家庭で発生したものである。この他、植物性自然毒が1件(家庭で発生したハシリドコロによる食中毒)、化学物質が1件(飲食店で発生したワカシの干物によるヒスタミン中毒)が確認されている。
平成7年の特徴は、患者数100 名以上の大規模集団例が細菌性食中毒64件中9件(14%) と非常に多かったことである。その内訳は、サルモネラが6件(血清型Enteritidis が5件Typhimurium が1件)、カンピロバクタ−、黄色ブドウ球菌、ウエルシュ菌が各1件で、平成元年以来多発しているサルモネラEnteritidis による食中毒が依然として非常に重要な問題であることを強く示唆するものである。
微生物部 細菌第一研究科 甲斐明美
平成7年の食中毒発生状況 ───────────────────────────────────────── 全 国 東 京 都 原因物質 ─────────────── ────────────── 事件数(%) 患者数(%) 死者数 事件数(%) 患者数(%) 死者数 ───────────────────────────────────────── 腸炎ビブリオ 245(35.1) 5,515(20.9) - 29(36.3) 504(20.6) - サルモネラ 179(25.6) 7,996(30.4) 1 22(27.5) 1,014(41.5) - 黄色ブドウ球菌 60( 8.6) 940( 3.6) 1 5( 6.3) 236( 9.7) - カンピロバクタ− 20( 2.9) 1,493( 5.7) - 2( 2.5) 137( 5.6) - 病原大腸菌 20( 2.9) 2,951(11.2) - 1( 1.3) 90( 3.7) - ウエルシュ菌 20( 2.9) 2,884(11.0) - 3( 3.8) 228( 9.3) - セレウス菌 11( 1.6) 479( 1.8) - 2( 2.5) 7( 0.3) - ボツリヌス菌 3( 0.4) 10 - - - - その他の細菌 3( 0.4) 61( 0.2) - - - - ───────────────────────────────────────── 細菌性総数 561(80.3) 22,329(84.8) 2 64(80.0) 2,216(90.7) - ───────────────────────────────────────── 動物性自然毒 35( 5.0) 57( 0.2) 2 3( 3.8) 3( 0.1) 1 植物性自然毒 28( 4.0) 182( 0.7) 1 1( 1.3) 2( 0.1) - 化学物質 3( 0.4) 92( 0.3) - 1( 1.3) 2( 0.1) - ───────────────────────────────────────── 原因物質不明 72(10.3) 3,665(13.9) - 11(13.8) 221( 9.0) - ───────────────────────────────────────── 合 計 699(100.0) 26,325 5 80(100.0) 2,444(100.0) 1 ─────────────────────────────────────────