東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況、l995年(第17巻、10号)

コレラの発生状況、l995年(第17巻、10号)

 

1996年10月

 


 

 l995年1〜l2月の1年間に厚生省に届け出られたわが国におけるコレラ発生件数及び患者数は合計247 件373 名(真性患者302 名、保菌者19名、疑似患者52名) であり、発生件数及び患者数とも前年の3倍であった。これは、2月から3月にかけて、インドネシア、バリ島を訪れた人々の間に、合計296 名の患者発生をみた結果である。これらのうち、海外とは直接関連の認められない国内発生例は全て散発事例で、1都1道1府12県において31件31名(内菌が分離されない疑似患者5名を含む)を数えた。その発生は7月(2件2名)、8月(10件10名)及び9月(11 件11名) の夏季の3か月に集中しており、残り8件8名は2、5、6、10月及び11月の発生であった。分離されたコレラ菌の血清型は、ほとんどがエルト−ル小川型(25件) でエルト−ル稲葉型はわずかに1件であった。なお、少なくとも山形県と大阪府で確認された各1名は、バリ島旅行者からの二次感染が疑われている。また、本年は、国内例による死亡例が愛知県で8月に1件確認されている。

 一方、海外感染例は前述のようにバリ島旅行者の間に患者の多発(本誌16巻、2号参照)があったことから216 件342 名(疑似患者47名を含む)と、わが国でコレラが輸入感染症として注目されるようになった1975年以降最も大規模なものであった。推定感染国別では当然インドネンシアが最も多く180 件300 名で、内バリ島での感染例は176 件296 名であった。次いでタイ(7件7名) 、フィリピン(6件6名)、インド(4件5名) 、ベトナム(3件3名)、パキスタン、ネパ−ル、中国、台湾、エジプト、マレ−シア及びタヒチが各1件l名であった。残り9件14名は東南アジアやケニア等を含む複数国への旅行者であった。真性患者277 名及び保菌者18名から分離されたコレラ菌は、バリ島旅行者由来の1株がエルト−ル稲葉型であった他は全てエルト−ル小川型であった。

 次ぎに、世界のコレラ発生状況をみると(WHO Weekly Epidemiological Record, 71 巻、21号、 l996年)、発生国数は前年よりl6カ国少ない78カ国で、罹患者総数も47%減の208,755 名(Ol39 コレラ菌感染例も含む) 、また、死者も約半数の5,034 名であった。しかし、致命率は前年の約2倍の5.9 %であった。

 大陸別の発生状況は、アフリカ大陸では26カ国から71,081名の罹患者と3,024 名(致命率4.3%)の死者が報告された。罹患者は前年の44% の減少であったがったが、これは、ザイ−ルでの発生数が前年の1/100 に激減、更にギニアやギニヤビサウなどでも大幅な罹患者の減少がみられたことによる。ザイ−ルでの減少は、難民の移動が安定したことが大きく影響している。しかし、これに対してカ−ボベルデやブルンジ、リビヤなどでは罹患者の増加が著しく、また、シエラレオネでは1987年以来の発生報告があった。

 アメリカ大陸では、前年より2カ国少ない15カ国から85,809名の罹患者数と845 名の死者数が報告された(致命率1%)。1991年突如としてペル−に上陸して以来、常に発生報告があった国々のうちブラジルやエルサルバドルの発生が前年に比べ1/2 〜1/4 に減少したが、メキシコでは、逆に前年の約4倍に増加している。なお、初発国のペル−では最盛期の1/15と減少しているが、依然として2万人の患者発生がみられる。

 1993年以来流行の拡大がみられたアジア地域でも、発生国数、罹患者数とも減少し、18カ国から前年の52% 減の50,921名の患者、及び死者が1,145 名(致命率2.3%) が報告された。罹患者数が減少したのは中国、ラオス、フィリピンなどであったが、逆にイランやミャンマ−などでは増加した。また、前述のようにわが国ではインドネシア旅行者間でコレラ罹患者が顕著であったにもかかわらず当国からの報告はなかった。

 致命率はアフリカのマリで15% と最も高い値であったが、アジア州においてはラオスで、昨年に引き続き本年も高く13% であった。

 1992年にインド、バングラデシュで流行し拡大が懸念された新型コレラ菌O139 (ベンガル)は、本年は僅かにミャンマ−から75例報告されたのみで、他の国での輸入例もなかった。

 ヨ−ロッパからは17カ国から937 名の罹患数が報告された。このうちl3カ国は全て輸入事例であった。前年、約1,000 名の罹患者が報告されたロシア連邦では9名と減少したが、モルドバ共和国では増加している。

 オセアニアではオ−ストラリアとニュ−ジランドから輸入例のみ7例の報告があった。

微生物部 太田 建爾

 

                              表1    わが国におけるコレラ発生状況
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    年次         1986    1987    1988    1989    1990    1991    1992    1993    1994    1995
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  海外感染例    27( 7)  31( 7)  34(11)  38(13)  68(13)  72(15)  49(18)  99(16)  90(16)  341(36)
  国内感染例     1( -)   7( -)   4( -)  64( 1)  12( -)  30( 6)   3( -)   3( -)  24( 1)   31( 5)
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    合計        28( 7)  38( 7)  38(11) 102(14)  80(13) 102(21)  52(18) 102(16) 114(17)  372(41)
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  V.cholerae 0139        ・・      ・・      ・・      ・・      ・・      ・・      3*      9( 1)*   0
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  (  ):東京都分再掲,* :海外旅行者由来,  ・・:未検査.

表2 世界のコレラ発生状況(WHO, Weekly Epidemiological Record)

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年次 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995
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汚染国数 36( 1) 34( -) 30( -) 36( 2) 37( 3) 59(14) 68( 5) 78( 3) 94( 7) 78( 1)
罹患者数 46,473 48,507 44,083 53,970 70,084 594,694 461,783 376,845 384,403 208,755
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( ):新しく汚染国となった国数

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