東京都健康安全研究センター
1996〜97年冬季の東京都におけるインフルエンザの流行(第18巻、2号)

1996〜97年冬季の東京都におけるインフルエンザの流行(第18巻、2号)

 

1997年2月

 


 

 1996〜97年冬季の東京都におるインフルエンザの流行について、主に都立衛生研究所で実施した病因検索結果に基づき概要を以下報告する。東京都における今冬季のインフルエンザ様疾患による集団かぜは、1996年11月下旬に福生保健所管内の小学校で発生した事例が初発であった。これら患者5名のうがい液のうち3件はPCR法による検査でAH3(A香港)型ウイルスと型別した。その後、2件からAH3(A香港)型ウイルスが組織培養を用いた分離試験により検出された。また、ペア血清が得られた3名について血清学的試験を行った結果、2名に同型ウイルス抗原株に対して16倍の抗体価の有意上昇を認め、同ウイルスによる集団事例である事を確認した。この集団発生以降、12月17集団、1997年1月7集団、2月4集団、3月1集団の合計30集団例の発生報告があった。搬入された集団かぜ患者に共通する症状は、発熱(37.0〜40.1℃)、せき、頭痛、咽頭痛、筋肉・関節痛であった。これら患者の検査材料それぞれについて病因ウイルスの検索ならびに血清学的試験を行った。検査結果は表に示す通りである。

 今冬季、東京都においてインフルエンザウイルスが最初に検出されたのは、前述の福生保健所菅内の小学校で発生した事例であるが、12月上旬に中野保健所管内の小学校で発生した事例からは患者5名のうち3名からB型ウイルスが検出された。それ以後、1997年3月中旬までにAH3(A香港)型ウイルスによる事例が合計22集団(PCR法及び血清学的診断によるもの8集団)確認された。また、B型ウイルスによる事例は2集団でいずれもPCR法、ウイルス分離試験・血清学的珍断により確認された。この他、1997年1月中旬の1例では、患者5名のうち2名はAH3(A香港)型ウイルス、残り3名のうち2名からはB型ウイルスが検出された。また、AH3(A香港)型ウイルスが検出された1名はペア血清による血清学的試験で、インフルエンザAH3型及びB型ウイルス抗原に対する抗体価の有意上昇を同時に認め混在流行を確認した。なお、1996年12月上句の1集団例、97年2月下句の1集団例は病因を明らかにすることはできなかったが、調査表によるといずれも下痢と嘔吐を伴っており、冬季に発生するSRSVによる事例と推察された。

 以上のごとく東京都における今冬季の集団かぜの流行は、AH3(A香港)型ウイルスが主でそれにB型ウイルスも加わった混在流行であった。なお、検素した集団例からはAH1(Aソ連)型ウイルスによる事例は1例も認められなかった。

 東京都感染症サーベイランス情報による今冬季の都内におけるインフルエンザ様疾患患者の発生状況は、1996年11月下句から12月中旬にかけて1定点当たり(人)0.23、0.92、3.49、9.63と患者数の増加が見られ、下旬にはピークを迎え19.04と患者数は急増した。その後、1997年1月上旬から再び患者数は7.46、14.81、15.04と増加し、2月上句には定点当たり15.31人と今シーズン2回目のピークとなった。以後、徐々に患者数は減少しインフルエンザの流行は終息した。当研究所ではウイルス分離にあたって発育鶏卵培養法及び継代細胞培養法を並行して行っているが、前者によるAH3型ウイルスの検出はここ数年困難になりつつあるが、今季は1集団例から1株のみ検出されたこと、また、今季B型ウイルスの検出に関しても同じような傾向が見られること等から、今季流行株が変異しこれまでの株と生物学的性状を異にしている可能性が高いことを示唆している。なお、今回の流行期から、PCR法を本格的に導入したことにより、従来の分離法で陰性となった集団例も本法での迅速な型別診断が可能となった。

 一方、厚生省保健医療局エイズ結核感染症課のインフルエンザ様疾患発生報告によれば、当初大流行になることが危惧されていたにもかかわらず、東京都における集団発生は()内の前年同期に比べ、学級閉鎖学校数は983校(861校)、患者数は296,234人(23,052人)とわずかに増加したにすぎなかった。また、全国における息者数も296,849人(186,691人)と昨年の約1.6倍にとどまったことは今季の流行規模は前季のそれに比べそれ程大きなものではなかったことをうかがわせた。なお、全国における流行ウイルスは、AH3型が主でそれにB型ウイルスが加わったもので、AH1型ウイルス検出の報告は皆無であった。ちなみに全国における検出ウイルス数は、AH1型:0、AH3型:3,035株、B型:410株であった。

微生物部 ウイルス研究科 山崎 清

   1996年〜1997年冬季、東京都における集団かぜ患者の病因検索
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             検索対象    診 断 結 果
                                  ───────────────
  発生年月 旬     集団例数  インフルエンザウイルス  
                                  ───────────────
                  AH3型  B型  AF3型+B型 不明
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  1996.11 下旬      1         1
     12 上旬            7         5      5               1
      中旬      10         4(6)
  1997. 1 中旬      5         2(2)            1
          下旬      2    
     2 上旬         3         3
          下旬      1                                 1
        3 中旬      1         1
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      計         30        17(8)   6        1       2
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   (  )内はPCR法及び血清学的試験により確認された集団事例数
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