東京都において分離された赤痢菌及びサルモネラの薬剤感受性について(1996年)(第18巻、7号)
1997年7月
1996年に衛生研究所並びに東京都・区立保健所など関係検査機関で分離された赤痢菌とサルモネラについて、衛生研究所が実施した薬剤感受性検査成績の概略を紹介する。
供試菌株は、都内の患者及びその関係者、飲食物取扱業者(国内由来株)並びに海外旅行者(海外由来株)から分離された赤痢菌68株とサルモネラ538 株である。
薬剤感受性試験は、例年同様、米国臨床検査標準委員会(NCCLS)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BBL)を用いて行なった。供試薬剤は、クロラムフェニコ−ル(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、 カナマイシン(KM)、 アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾ−ル・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)及びノルフロキサシン(NFLX)の9剤である。
赤痢菌及びサルモネラの菌種・菌群別にみた耐性菌の出現頻度を表に示した。
赤痢菌の耐性頻度は、国内由来株で94.1% 、海外由来株で90.2% であり、例年と同様の高耐性率であった。薬剤別耐性頻度についてみると、前者では SM(82.4%)、 TC(76.5%)、 ST(64.7%)、 CP(35.3%)、ABPC(35.3%)、 NA(11.8%)、 KM(5.9%)の順、後者では SM(84.3%)、TC(76.5%)、 ST(66.7%)、 ABPC(27.5%)、 CP(25.5%) の順で高かった。これら耐性株の耐性パタ−ンについてみると、国内由来株のD群菌では耐性11株中4株がTC・SM・STの3剤耐性、海外由来株ではB群菌でCP・TC・SM・APBC(4 株)、 CP・TC・SM・ABPC・ST(2 株)、D群菌でTC・SM・ST(22 株)、CP・TC・SM・ABPC・ST (4 株) が主要なものであった。なおFOM、NFLXに対する耐性株はこれまでと同様みられなかつた。
一方、サルモネラにおける耐性菌の出現頻度は、国内由来株で36.8%、海外由来株で33.1% であり、前者の耐性頻度が前年(38.3%)を若干下回ったのに対し、後者は前年(26.9%)よりかなり高い結果であった。国内由来株の耐性率が海外由来のそれを1994年以降3年連続で上回っているが、これは SM 単剤耐性の S.Enteritidisが前者において高頻度に分離されていることを反映している。薬剤別耐性頻度は、国内由来株では SM(30.5%)、 TC(19.8%)、 ABCP(6.3 %)、 CP(5.6%)、 KM(5.3%)、 ST(4.6%)、 NA(1.3%)、 FOM(0.3%) の順、海外由来株では TC(30.3%)、 SM(21.8%)、 NA(11.3%)、 KM(6.3%)、 ABPC(5.6%)、 ST(5.6%)、 CP(3.5%)の順で高かった。なお、FOM耐性株は国内由来に1株認められたが、NFLX耐性株は皆無であった。主要O群別に見ると国内由来株でO9群、O8群及びO4群、海外由来株でO8群とO4群において耐性頻度が高く、また血清型別(国内由来で10株、海外由来で5株以上検出された血清型)では、国内由来株で S.Hadar(95.0%)、 S.Typhimurium(79.2%)、 S.Enteritidis(66.3%)、 S.Infantis(40.0%)、海外由来株で S.Blockley(100%)、 S.Hadar(100%)、 S.Anatum(71.4%)、 S.Agona(40.0%) が高率であった。なお、国内由来のチフス菌1株とパラチフスA菌1株は感受性であった。
赤痢菌及びサルモネラの薬剤耐性菌の出現頻度(1996年:東京)
菌種・菌群 | 国内由来株 | 海外由来株 |
赤 痢 菌 | 16/17(94.1)* | 46/51(90.2) |
B 群 C 群 D 群 |
5/5 (100) - 11/12(91.7) |
10/11(90.9) 3/3(100) 33/37(89.2) |
サルモネラ | 145/396(36.8) | 47/142(33.1) |
チフス菌 パラチフスA菌 O4 群 O7群 O8 群 O9 群 O3、10群 O1、3、19群 その他のO群 |
0/1 0/1 28/62(45.2) 18/128(14.1) 30/56(53.6) 66/100(66.0) 3/20(15.0) 0/8 0/20 |
- - 9/23(39.1) 4/30(13.3) 17/21(81.0) 2/30(6.7) 13/32(40.6) 2/4(50.0) 0/2 |
* 耐性株数/試験株数(%)