東京都内で発生したグリ−ンオリ−ブによるB型ボツリヌス食中毒事例(第19巻、10号)
1998年10月
ボツリヌス食中毒は我が国において毎年数例の発生が報告されているが、その90%以上はE型毒素産生菌による事件であり、その他の毒素型による中毒は稀である。本年8月に東京都内で発生が確認された事例は、イタリア産のグリーンオリーブ塩漬け(ビン詰め)が原因食品であり、我が国で3例めのB型ボツリヌス毒素による事例であった。そこで本事件の疫学的・細菌学的調査成績について紹介する。
初発患者は、7月24日千代田区内の飲食店でグリーンオリーブの塩漬け、キムチ漬け等を喫食し、7月26日嚥下困難、食事摂取が不可能になった。さらに、7月28日に複視、眼瞼下垂、構音障害出現、対光反射陰性、両眼散瞳等も認められ、8月3日には水分摂取不能となったことから8月7日都内の病院に入院した。当初ギランバレー症候群あるいはボツリヌス食中毒の疑いがもたれ、検査が行われた。
その後の調査の結果、上記患者と同時に喫食した3名に軽度ではあるが上記患者と同様な症状が発現していることが明らかになったことから、ボツリヌス食中毒の疑いとして当研究所で検査を実施した。
疫学調査の結果、患者数は7月24日から8月6日までの当該飲食店利用者及び当該店従業員の計16名に及び、共通食は7月24日に開封されたビン詰めのグリーンオリーブの塩漬けのみであることが判明した。
そこで、初発患者が店から自宅に持ち帰っていたオリーブ残品、当該店に残っていたビン詰めのオリーブと漬け汁に加え、他の食品材料15件、厨房のふき取り材料や排水など9件、患者血清11件及び糞便11件の計48件について細菌及び毒素検査を実施した。その結果、患者が自宅に持ち帰っていたオリーブ残品、当該店に残っていたビン詰めのオリーブ及びその漬け汁からそれぞれB型ボツリヌス毒素及びタンパク分解性のB型ボツリヌス菌が検出され、患者ふん便11検体中2検体からもB型ボツリヌス菌が検出された。当該店に残っていた他の食品及び環境からはボツリヌス菌は検出されなかった。また、患者8名の血清(1患者は時期をかえて4回検査)からもボツリヌス毒素は検出されなかった。本中毒の原因となったオリ−ブのpHは5.4、水分活性は0.99であり、ボツリヌス菌の発育と毒素産生に十分な値であった。
なお、輸入オリーブの安全性を確認する目的で、同一ロット4件、同一ブランド製品14件を含む91検体の市販オリーブ(イタリア産43件、フランス産7件、スペイン産31件、アメリカ産5件、ギリシャ産2件、国内産2件及びブラジル産1件)について細菌検査を実施したが、これらの検体からはボツリヌス菌及び毒素のいずれも検出されなかった。