東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(1997年)

コレラの発生状況(1997年)(第19巻、11号)

 1998年11月

 


 

 1997年(1−12月)に厚生省に届けられた我が国におけるコレラの発生件数及び患者数は、86件101 名(真性患者86名、保菌者2名及び疑似患者13名)で、発生件数、患者数とも前年に比して大幅に増加した(表1)。これらのうち、海外旅行者による輸入事例は65名(真性患者54名、疑似患者11名)で、その旅行先はアフリカ地域への3名を除き、アジア地域となっている。主要推定感染国(一か国に絞られたもの)は、インドネシアが最も多く17名、次いでタイ15名、フィリピン7名であった。一方、海外旅行歴のない国内発生例は1都1府15県において36名(真性患者32名、保菌者2名、疑似患者2名)と例年になく多数報告され注目された。いずれも散発例と考えられたもので、1月、3月の各1例及び10月の2例を除き、これまでと同様に6−9月の夏期に集中していた。なお、本年の真性患者と保菌者からの分離コレラ菌は84件がエルト−ル小川型、4件がエルト−ル稲葉型であった。

 国立感染研、神奈川衛研及び都衛研が共同で、本年全国で分離された海外旅行歴のない患者から分離されたコレラ菌の分子疫学的解析を行った結果、ほとんどがすべての試験で非常に似たパタ−ンを示した。これは国内で過去に集団発生した事例由来株のパタ−ンとは異なっていたが、海外の某国由来株の中に酷似したパタ−ンを示すものが認められた。

 次に、WHO の報告に基づき世界のコレラ発生状況を紹介する(WHO Weekly Epidemiological Record, 73(27),1998)。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルト−ルコレラ菌によるコレラの発生が続いており、WHO に報告された1997年の患者数は147,425 名、死者数は6,274 名(致死率4.3 %)であった。なお、全患者数の80%に当たる118,349 名はアフリカからの報告である。表2に示すように発生規模はほぼ前年並みであったが、発生を報告した国数は前年の71か国から65か国に減少(9%減)した。世界全体の患者数は1992年以降漸減傾向にあるが、問題なのは致死率に改善の跡が見られてきていない点である。

 本年で特記されるのは、アフリカ東部地域において大流行が発生したことで、年末までにその全域が影響を受け、特にジブチ、ケニア、モザンビ−ク、ソマリア、ウガンダ、タンザニアにおいて発生が顕著であった。この大流行の多くは、一部の国において大洪水をもたらした集中豪雨の後に発生しているが、その原因としてはエルニ−ニョ現象の影響による説が有力である。一方、アメリカ大陸では前年より患者数が15.5%減少したが、多くの国から予期しない集団発生のあったことが報告された。これもアフリカ同様エルニ−ニョ現象に関連しているものと考えられている。

 なお、1992年にインドのベンガル湾岸地域で突発したコレラ菌O139 (ベンガルコレラ菌)は、これまで10か国で検出されているが、発生地はまだ西東アジアに限られており、本年はバングラディシュから報告されている。本菌の輸入例としては1994年までに、日本、ヨ−ロッパ、米国等から報告されているが、本年は日本から1例報告された。

表1 我が国におけるコレラの発生状況

年 次 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
輸入事例 34(11) 38(13) 68(13) 72(15) 49(18) 99(16) 90(16) 341(36) 49( 9) 65( 8)
国内事例 4( 0) 64( 1) 12( 0) 30( 6) 3( 0) 3( 0) 24( 1) 31( 5) 13( 1) 36(10)
合 計 38(11) 102(14) 80(13) 102(21) 52(18) 102(16) 114(17) 372(41) 62(10) 101(18)

 

( ):東京都分再掲

表2 世界のコレラ発生状況(WHO Weekly Epidemiological Record)

年 次 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
報告国数 30( 0) 36( 2) 37( 3) 59(14) 68( 5) 78( 3) 94( 7) 78( 1) 71( 1) 65( 2)
罹患者数 44,083 53,970 70,084 594,694 461,783 376,845 384,403 208,755 143,349 147,425

( ):初めて罹患者が報告された国数

微生物部 細菌第一研究科 松下 秀

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