最近(1990年以降)の食品媒介リステリア症集団発生事例(第19巻、12号)
1998年12月
1981年にカナダでリステリア症が食品を介して感染することが初めて証明されて以来、欧米諸国を中心に、集団あるいは散発の食品媒介リステリア症が次々と報告されている。最も新しい集団発生事例は、昨年8月からアメリカで発生している食肉製品を原因食品とする事例である。CDCのMMWR(Vol.47/No.50,51)によると今年1月6日までに11州で50名以上が罹患し、成人6名が死亡、2名が流産した。起因菌は血清型4bで、原因食品は特定の工場で生産されたホットドッグなどのそのまま食べられる食肉製品と推定されている。このほか食肉製品を原因とする集団事例が、1990年にオーストラリア、1992年と1993年にフランスで報告されている。特に、1992年のフランスの豚舌のゼリー寄せを原因とする事例は、患者279名、死者85名という大規模なものであった。また、チーズを原因食品とする集団事例も、デンマークおよびフランスで報告されている。
以上の事例では、いずれも従来からのリステリア症の典型的な病態(初期のインフルエンザ様症状とその後の髄膜(脳)炎、敗血症、あるいは流死産)を示したが、最近、急性胃腸炎を主症状とする集団事例が相次いで報告されている。イタリアのライスサラダ(1993年)、アメリカのチョコレートミルク(1994年)、そして1997年にイタリアで発生した学校給食のコーンサラダを原因とする1,594名の事例である。
現在のところ、日本ではリステリア症の起因菌である Listeria monocytogenes は行政上の食中毒菌に指定されておらず、食品媒介リステリア症の発生も証明されていない。しかし、欧米諸国ではリステリア症は極めて重要な食品媒介感染症であるとの認識に基づいてサーベイランスシステムが構築されているところから、今後、日本でもこの認識に基づいた検査体制の整備ならびに疫学解析が必要と思われる。
発生年 | 発生国(地方) | 患者数 | 死者数 | 血清型 | 原 因 食 品 |
1989-90 1990 1992 1993 1993 1994 1995 1997 1997 1998-99 |
デンマーク オーストラリア フランス フランス イタリア アメリカ (イリノイ州) フランス フランス イタリア アメリカ (オハイオ州など11州) |
26 11 279 33 18 45 33 14 1,594 >50 |
6
85 0 |
4b
4b |
ナチュラルチーズ(青カビタイプなど) 食肉製品 豚舌のゼリー寄せ リーエット(豚肉調理品) ライスサラダ チョコレートミルク ナチュラルチーズ(ソフトタイプ) ナチュラルチーズ(ソフトタイプ) コーンサラダ ホットドッグなどの食肉製品 |