食品媒介のレンサ球菌による集団咽頭炎について(第20巻、5号)
1999年5月
一般に食品媒介の感染症というと、嘔吐や下痢の急性胃腸炎を起こす食中毒を想定してしまうことが多い。しかし、海外では食品を媒介して集団咽頭炎を起こす、レンサ球菌感染症集団発生例の報告が散見されている。近年、我が国においてもA群レンサ球菌やG群レンサ球菌による咽頭炎の集団発生例が報告されている。我が国の主な食品媒介レンサ球菌感染症の8事例を紹介するとともに、概要を述べたい。
食品媒介のレンサ球菌感染症の症状は、咽頭痛、発熱、全身倦怠、頭痛、関節痛、悪寒、筋肉痛等が主な症状であるが、吐き気、下痢、食欲不振、腹痛を呈する患者も含まれる。8事例とも暖かい時期に発生しており、汚染食品を食べた集団の30〜90%とかなり効率に発症している。発症までの潜伏期間は5時間〜6日で一峰性の発生分布を示し、単一曝露による共通感染の可能性を示している。
福岡の事例では、分離された食品由来、患者由来の菌は制限酵素Sma I、Sfi Iによる消化後のパルスフィールド電気泳動法(以下PFGE法)による泳動パターンは全て一致していた。また、東京の学校祭で提供された、エチオピア風シチュー(スガワット)を喫食した患者由来のG群レンサ球菌も、Sma I、Sfi Iによる消化後のPFGE法による泳動パターンが一致していた。
レンサ球菌は咽頭への吸着性が強く、曝露された菌に対する抗体を保有していない場合、菌量はわずかでも発症する可能性は高い。
残品から菌が検出された事例では、検出菌量は5.9×103/g であった。卵が原因と推測された患者由来のG群レンサ球菌による食品中での増殖実験の結果、約10個の菌は室温(約25℃)に24時間放置後、卵白で104個、卵黄では105個に増加した。本菌の成人健康保菌者の菌保有率は25〜30%であること及び増殖実験の成績から、レンサ球菌保菌又は罹患調理者による食品汚染の機会は、かなり高頻度と推定される。しかしながら、小規模の発生は風邪様疾患として見過ごされている可能性も高い。今回報告した8事例は、患者数が40名以上であり、食品媒介の感染症としては大規模であった。同一時期に、同一の集団で咽頭痛、発熱、頭痛が見られたような事例では、本菌による感染症を疑って調査等を実施する必要がある
年次 | 発 生 場 所 | 患者数 | 感染源 | 群 | T 型 |
1969. 7 | 埼玉 小・中学校給食 | 69 | 焼きそば | A | T-12 |
1983. 7 | 東京 講演会昼食 | 583 | サンドイッチ(卵) | A | T-13 |
1996. 5 | 愛知 | 236 | 仕出し弁当 | A | T-1 |
1997. 5 | 福岡 国際会議警備 | 943 | 仕出し弁当 | A | T-B3264 |
1997. 7 | 高知 ビール祭り | 77 | A | T-22 | |
1998. 8 | 茨城 ソフトボール大会 | 342 | 仕出し弁当 | A | T-22 |
1998. 9 | 東京 学校祭 | 46 | スガワット(卵) | G | |
1998. 9 | 熊本 会社職員大会 | 254 | サンドイッチ | A | T-28 |