東京都感染症発生動向調査におけるウイルス検索成績(1998年)(第20巻、7号)
1999年7月
本年の概況
1998年1月から12月の間に検査定点病院から搬入された検査材料は、インフルエンザ様疾患・無菌性髄膜炎・発疹性疾患・感染性胃腸炎等の患者1,034名の糞便252例、咽頭ぬぐい液654例、髄液409例、血液77例、及び尿・気道吸引物・結膜ぬぐい液・剖検材料等88例、合計1,480例であった。
これら検査材料について、組織培養によるウイルス分離試験を行った結果、396株のウイルスが検出された。検出されたウイルスの内訳は、インフルエンザウイルス109株、エコー30型ウイルス194株、アデノウイルス53株、コクサッキーウイルス13株、エコー3型ウイルス1株、エコー14型ウイルス1株、エコー18型ウイルス14株、ヘルペスウイルス1型5株であった。また、ELISA法によるロタウイルス検出は6例が陽性であった。
遺伝子検索の結果は、649例が陽性であり、その内訳は、エンテロウイルスが268例、アデノウイルス92例、小型球形ウイルス38例、パルボB19ウイルス5例、インフルエンザウイルス150例、ヘルペスウイルス26例(HSV;11例、HHV6;8例、HHV7;7例)、A型肝炎ウイルス2例、ムンプスウイルス25例、EBウイルス8例、水痘ウイルス3例、麻疹ウイルス9例、ロタウイルス2例、風疹ウイルス10例、サイトメガロウイルス11例であった。
1998年における感染症発生動向調査において極めて特徴的な事例は、1)脳炎・脳症・熱性痙攣等を併発したインフルエンザ様患者が多かったこと、2)4月〜7月において無菌性髄膜炎が多発したことがあげられる。
1)インフルエンザ様疾患患者からの検索結果
図1で示したように、インフルエンザ様患者の検体が搬入され始めたのは1997年11月からで、インフルエンザウイルス感染のピークは1998年1月下旬より2月中旬であった。3月までに搬入された231件の検体のうち136件からウイルスが分離でき、ほとんどがAH3型であった。
今回、脳炎・脳症や痙攣を併発するインフルエンザ様患者が多くみられ、患者の髄液からウイルスが分離されたことが今冬期の流行において特筆すべき事であった。
2)エコー30型ウイルスによる無菌性髄膜炎の流行について
東京都においては、4月下旬にエコー30型ウイルスによる無菌性髄膜炎患者を確認して以来、その患者数は急激に増加し、7月をピークとして12月まで続いていた。
1998年4月から12月までに無菌性髄膜炎を呈した患者294名より428件の検体が搬入されており116名(39%)からエコー30型ウイルスが検出された。無菌性髄膜炎の流行は、主にエコー30型ウイルスによるものであったが、同ウイルスによる症状は多岐にわたることから、インフルエンザ様疾患、感染性胃腸炎、不明発疹症、風疹、流行性耳下腺炎、などを呈していた患者からも同ウイルスが検出された。