全国的に患者発生のみられたイカ菓子によるサルモネラ食中毒について(第20巻、8号)
1999年8月
今年3月に川崎市で発生した、子供会の集団事例がきっかけとなった『乾燥イか菓子』を原因食品とするサルモネラ食中毒は、その後の調査によって全国46都道府県で1,500名以上の患者が確認された。ここでは、東京都における調査成績を中心に述べる。
東京都では4月に入ってから患者が確認され始めた。これは、都内にある菓子問屋に残っていた原因食品製造メーカーの乾燥イカ菓子からもサルモネラが検出されたという報道がきっかけとなり、患者家族や医療機関からの届け出があり、確認されたからである。
都立衛生研究所で検査した結果では、発症者42名を含むイカ菓子喫食者63名及び患者家族6名の合計69件のふん便検体中、28検体(40.6%)からサルモネラが検出された。このうち25検体(35.2%)からは血清型O7群のサルモネラ・オラニエンブルグが、1検体から血清型O4群のサルモネラ・チェスターが検出された。また、2検体ではサルモネラ・オラニエンブルグとサルモネラ・チェスターが同時に検出された。
さらに都内の医療機関において、イカ菓子を食べて発症した患者59名からもサルモネラが検出されている。この59名から検出した菌株の血清型は、58株(98.3%)がサルモネラ・オラニエンブルグであり、1株がサルモネラ・チェスターであった。東京都におけるサルモネラ感染者は確認しただけで83名に及ぶが、実際にはこれよりも遙かに多いものと推測される。また、感染者の年齢層は3歳から84歳代までの範囲にわたっているが、やはり年少者が多い状況であった。
原因食品となった乾燥イカ菓子は青森県の水産加工品製造メーカーで作られたもので、青森県の調査では、製造所全体が今回の主原因菌型であるサルモネラ・オラニエンブルグに汚染されており、この汚染がいつ頃から、どのような経路で広がり、イカ菓子に付着したのかは、推測すらできない結果であったと報告されている。
原因食品製造メーカーのイカ菓子は『バリバリイカ』『おやつちんみ』などの名称で、数種類が販売されていたが、いずれも5〜10g量が小袋に密封包装されているものであった。これらの製品118袋について検査した結果、95袋(80.5%)からサルモネラが検出された。95袋のうち76袋からはサルモネラ・オラニエンブルグが、残りの19袋からはサルモネラ・オラニエンブルグとサルモネラ・チェスターが同時に検出された。一部のものについて行ったサルモネラの定量試験成績ではその汚染菌量は最確数として100gあたり102 から104 個であり、1袋あたり数個から数百個のサルモネラが汚染していたことになる。この成績は一人が1袋だけを食べて発症したとすると、これまで一般的に言われていたサルモネラの感染発症菌量よりずっと少なく、この点については今後さらに検討すべきであることを示唆している。一方、対照として検査した他メーカー製のイカ菓子製品11検体からはサルモネラは検出されなかった。今回の事例において検出されたサルモネラ・オラニエンブルグとサルモネラ・チェスターのパルスフィールド電気泳動法による遺伝子解析結果は、当然のことながらそれぞれ一致しており、他県において検出された菌とも同じであった。
今回の事例は、これまで考えもしなかった乾燥したイカ菓子が原因食品となった特異な事例であり、またその摂取菌量も少ないことが推測できる。このような事実を今後の食中毒予防対策の中に反映させていく必要があることを教えてくれた事件といえよう。