小児におけるウイルス性胃腸炎の集団発生状況(第20巻、10号)
1999年10月
食品衛生法の一部改正をうけて、都立衛生研究所は1997年11月より、ウイルス性胃腸炎の集団発生事例について検査を実施してきた。従来のウイルス性胃腸炎は、生カキなど二枚貝の喫食による発症が主なものであったが、最近、カキが関連していない小児の集団ウイルス性胃腸炎が多発している。東京都内では1998年11月〜99年10月までの1年間に、保育園、幼稚園及び小学校において、小型球形ウイルス(SRSV)による集団胃腸炎が9事例、ロタウイルスによるものが1事例発生している。本稿では、これらの事例の概要と検査成績について報告する。
事例1:1998年11月21日に新宿区の保育園で、嘔吐、下痢、腹痛を主徴に園児25名、職員6名が発症した。当初、前日の行事食(おでん、おにぎり等)による食中毒が疑われた事例であったが、疫学調査において16日から発症者がみられており、食品のウイルス検査は、20日以前の残留食材についても行った。その結果、発症者ふん便では14件すべてから、食品では80件のうち20日以前の食材も含めて8件からSRSVが検出された。この事例は食品からSRSVが検出された数少ない事例であるが、検出された食材(こんにゃく、しらす、鶏肉、青菜等)は、カキなどの二枚貝と異なりSRSVを蓄積しているとは考えられない食品であることなどから、SRSV保有者などによって汚染された食品を喫食したことにより、SRSVに感染したものと推定された。
事例2・5・6も事例1と同様な感染様式が推定される事例であった。事例2は98年11月27日に江戸川区の幼稚園でハヤシライスやスパゲティ等を共通食に、園児78名、職員3名の発症者をみた。発症者ふん便34件,非発症者ふん便11件及び共通食7件についてウイルス検査を実施したところ、発症者ふん便31件,非発症者ふん便4件からSRSVが検出されたが、食品の検査ではSRSV陰性であった。事例5は、98年12月18日に大田区小学校において、調理実習をしたクラス36名中25名が発症、事例6が世田谷区小学校において、99年4月9〜11日に部活動の合宿に参加した児童33名中19名が発症したものであり、いずれの事例においても発症者及び非発症者ふん便からSRSVが検出されたが、食品からはSRSVは検出されなかった。
事例3:1998年12月6〜11日にかけて、豊島区の保育園で園児28名、職員2名が嘔吐、下痢などの症状を呈して発症した。発症者と非発症者のふん便をそれぞれ21、16件及び3〜8日の給食22件について検査を行ったところ、発症者15件、非発症者4件からはSRSVが検出されたが、食品からはSRSVは検出されなかった。
この事例は共通食の給食からはSRSVが検出されなかったこと、また発症者が特定の日に集中せず、長期間にわたってみられたことから、ヒトからヒトへの感染様式が推定された。同様に事例4(板橋区幼稚園、発症者146名)、事例7(東大和市保育園、発症者48名)、事例8(東大和市小学校、発症者8名)及び事例9(八王子市保育園、発症者40名)もヒトからヒトへの感染様式が推定された事例であった(表1を参照のこと)。
ロタウイルスによる胃腸炎の集団発生は、1999年4月2〜5日に大田区の保育園において、嘔吐、下痢を主徴に1歳児14名が発症し、電子顕微鏡法で発症者7名のふん便からロタウイルスを検出した事例であった。
表1.小児のウイルス性胃腸炎集団発生におけるSRSV検査成績
事例 |
発生年月日 |
発生場所 |
発症者数 |
発症者ふん便 | 非発症者ふん便 | 食 品 | |||
検査数 | 陽性数 | 検査数 | 陽性数 | 検査数 | 陽性数 | ||||
1 2 3 4 5 6 7 8 9 |
1998.11.21 1998.11.27 1998.12. 9 1998.12.12 1998.12.19 1999. 4.12 1999. 5.20 1999. 6.30 1999.10.27 |
新宿区(保育園) 江戸川区(幼稚園) 豊島区(保育園) 板橋区(幼稚園) 大田区(小学校) 世田谷区(小学校) 東大和市(保育園) 東大和市(小学校) 八王子市(保育園) |
31 81 30 146 25 19 48* 8 40 |
14 34 21 91 18 11 48 7 36 |
14 31 15 53 15 9 48 7 29 |
− 11 16 41 11 12 54 21 34 |
− 4 1 18 6 0 33 1 7 |
80 7 16 − 10 − 8 − 21 |
8 0 0 − 0 − 0 − 0 |
*:実際には80〜100名位の発症者がいたものと推定される。
非発症者ふん便中には、発症しているか否か不明のものが多数含まれている。