髄膜炎菌性髄膜炎について(第20巻、11号)
1999年11月
髄膜炎菌( Neisseria meningitidis )は、直径が0.6〜0.8μmのグラム陰性の双球菌で、自然環境では生存できず、また人以外の宿主から分離されることはない。人が唯一の保菌者であり、これら保菌者からの飛沫感染が主な感染経路となる。感染を受けた全ての人が発症するわけではなく、多くの場合は一過性に鼻咽頭に定着し保菌者になるか、あるいは消失し、発症することは稀である。しかし病原体が気道を介して血中に入り敗血症を起こしたり、さらに髄液にまで進入して髄膜炎を起こしたりする。
髄膜炎菌は敗血症や髄膜炎の他、肺炎・関節炎・骨髄炎等の原因菌になる。また、肛門・生殖器から分離されることもあり、尿道炎・子宮頚管炎・直腸炎の原因菌になる。髄膜炎菌は夾膜の抗原性により13の血清群(A,B,C,D,H,I,K,L,X,Y,Z,W135,29E)に分類される。
平成10年4月から平成11年10月までに、東京都内で9名の髄膜炎菌性髄膜炎の患者発生があった。平成4年に2名の患者発生があって以後、患者発生の報告はなかったが、平成10年に4人、11年に5人の患者発生があり、分離された菌株が型別のために搬入された。
届け出のあった髄膜炎患者の年齢は、1歳未満:1名、10〜19歳:2名、20〜29歳:2名、40歳以上:4名であった。髄膜炎菌性髄膜炎は、通常は15歳以下で乳児が多いと一般的に言われていたが、報告のあった患者は幼児・青年に限らず、50〜60歳代の高年齢者もみられた。男女比は男性:5人、女性:4人であり、差は見られなかった。血清型は、髄膜炎患者8名はB群、1名はUT(型別不能)であった。
また、髄膜炎菌による敗血症患者2名・肺炎患者1名・上気道炎患者1名・尿道炎患者1名の計5名の髄膜炎以外の患者発生報告があり、分離された菌株が型別のため都立衛生研究所に搬入された。
これら5名のうち敗血症患者は、20歳代、30歳代であり、肺炎患者は30歳代、上気道炎患者は40歳代、尿道炎患者は20歳代であった。敗血症患者2名はC群とW135群、肺炎患者1名はW135群、上気道炎患者はB群、尿道炎患者はUTであった。
患者家族の検査では、1歳未満の髄膜炎患者の父親は同じB群を保菌しており、30歳代の肺炎患者の子供はW135群を保菌していたが両者とも無症状であった。また他の患者(髄膜炎・敗血症等)の関係者検査では、患者5名の関係者合計71名について咽頭ぬぐい液の検査を行ったが、全員陰性であった。
東京都内髄膜炎菌による患者発生状況
(H10.4〜H11.10)
No. | 年齢 | 性別 | 病 名 | 型 別 | 関係者検索 |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 |
3ヶ月 18 19 26 27 49 50 54 65 21 22 32 34 41 |
男 女 男 女 男 男 男 女 女 男 女 女 男 男 |
髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 髄膜炎 尿道炎 敗血症 肺炎 敗血症 上気道炎 |
B群 B群 B群 B群 B群 UT B群 B群 B群 UT W135群 W135群 C群 B群 |
1名B群検出 3名陰性 60名陰性 5名陰性 1名陰性 1名W135群検出 2名陰性 |