東京都感染症発生動向調査におけるデングウイルス感染事例について(第21巻、7号)
2000年7月
デング熱は、デングウイルスを保有した蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)によって媒介される急性の熱性疾患である。突然の発熱で発症し、頭痛、全身の筋肉や骨の痛み、続いて発疹を呈する。症状は、1週間程度で回復し、予後は良好である。デング熱と同様の症状を呈した患者の一部において、解熱後、血小板減少による出血傾向を呈し、重症型に移行する場合がある。この場合をデング出血熱という。
1999年4月に施行された感染症新法において、デング熱は、感染症発生動向調査の全数届出四類感染症に指定された。全国では1999年9例、2000年(8月13日現在)10例の患者が報告され、そのうち、東京都では1999年4例、2000年(8月13日現在)6例の患者が報告されている。全て輸入感染例である。
当所でも、1999年より感染症発生動向調査にデングウイルスの検査を導入し、1999年は8件、2000年(8月13日現在)は5件のデング熱疑い患者の検査を行ってきた。その結果、デングウイルス感染事例を2件経験したので報告する(表1)。
事例1:患者は22才男性、スリランカ・インド旅行後の4月1日に発病した。発熱、関節・筋肉痛を主訴とし、4月6日、都内の病院を受診した。患者からは節足動物のものと思われる刺し口があり、上気道炎、肝脾腫も見られた。また、発熱(最高39℃)は発病から1週間続き、解熱の際に点状疹が全身、特に四肢にみられた。デング熱を疑い、4月7日に患者から血液を採取し、検体は4月11日に当所に搬入された。即日、簡便法であるラピッドイムノクロマトグラフィックテスト(PanBio社)を行ったところ、IgM抗体が陽性、IgG抗体は陰性であった。確認のため、更にIgM-ELISA(PanBio社)を行ったところ、IgM抗体が陽性であり、デングウイルス感染と判定した。この時点で結果を病院に報告し、4月13日に病院から「四類感染症・全数報告・デング熱」として届け出された。また、感染したデングウイルスの血清型を確認するため、プラック法による中和抗体価を測定したところ、抗体価は、デングウイルス2型に対して1280倍と最も高く、デングウイルス2型感染と判定した。
事例2:患者は42才男性、フィリピンから帰国後の6月27日に発病、同日、都内病院を受診した。発熱、発疹、血小板減少を伴う出血傾向を呈し、デング熱が疑われた。7月5日に血液を採取、翌6日、当所に搬入された。事例1と同様に、ラピッドイムノクロマトグラフィックテスト、IgM-ELISA でIgM抗体が陽性であり、デングウイルス感染と判定した。同日、病院から「四類感染症・全数報告・デング熱」として届け出された。中和抗体価は、全ての血清型で40倍以下であり、抗体価による感染ウイルスの血清型別はできなかった。
表1.患者の臨床症状および検査結果
事 例 1 | 事 例 2 | ||
患 者 | 22才、男性 | 42才、男性 | |
発 病 日 | 2000年4月1日 | 2000年6月27日 | |
初診日/検体採取日 | 2000年4月6日/2000年4月7日 | 2000年6月27日/2000年7月5日 | |
検体搬入日 | 2000年4月11日 | 2000年7月6日 | |
臨床診断名 | デング熱疑い | デング熱疑い | |
疫学的事項 | 散発、スリランカ・インド旅行、刺し口あり | 散発、フィリピン旅行 | |
推定感染時期 | 2000年3月 | 2000年6月20日頃 | |
臨床症状 | 発熱(最高39℃、1週間) 発疹(四肢)、関節・筋肉痛 上気道炎、肝脾種 |
発熱(最高40℃) 発疹、出血傾向 |
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検 査 結 果 |
イムノクロマト | IgM(+)、IgG(−) | IgM(+)、IgG(−) |
IgM-ELISA | IgM(+) | IgM(+) | |
PCR法/ウイルス分離 | (−)/(−) | (−)/(−) | |
中和抗体 | D1: 80倍 、D2:1280倍 D3: 40倍 、D4:<40倍 |
D1:<40倍 、D2:<40倍 D3:<40倍 、D4:<40倍 |
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全数報告届出日 | 2000年4月13日 | 2000年7月6日 |