東京都における輸入細菌性下痢症、2000年(第22巻、1号)
2001年1月
本号では、海外旅行者を対象に衛生研究所で実施した昨年1年間(2000年1月〜12月)の腸管系病原菌検索成績について紹介する。
この間に実施した海外旅行者検便数は78件(下痢現症者45件、下痢既往者及び健康者33件)であり、昨年の約1/2とさらに減少した。この減少は1999年4月の感染症新法施行以降、旅行者の検便提出が自己申告制になった影響によるものである。これらのうち何らかの腸管系病原菌が検出されたのは、下痢現症者群で22件(48.9%)、下痢既往者及び健康者群で8件(24.2%)、全体では30件(38.5%)でほぼ例年同様の検出率であった。本疾病では複数病原菌検出例の頻度が高いことが知られているが、陽性者のうちの20.0%に当たる6件(3種類1件、2種類5件)がそうであった。
検出病原菌を検出頻度順にみると、例年と同様に毒素原性大腸菌が13株と最も高率で検出病原菌の33.3%を占め、次いでカンピロバクター9株(23.1%)、病原血清型大腸菌、プレジオモナスが各4株(10.3%)、毒素産生性コレラ菌3株(7.7%)、赤痢菌、エロモナス各2株(5.1%)、サルモネラ、腸炎ビブリオが各1株(2.6%)の順であった。コレラ菌3株は、いずれもエルトール小川型であった。赤痢菌は2株検出され、フレキシネル菌(血清型2a)及びソンネ菌であった。サルモネラは1株検出され、その血清型はKottbus(O8群)であった。
旅行先別に病原菌検出状況をみると、東南アジアへの旅行者29名のうち陽性者は14名(48.3%)で、毒素原性大腸菌6株(ST産生3株、LT産生2株、ST/LT産生1株)、プレジオモナス4株、コレラ菌とカンピロバクターが各3株、病原血清型大腸菌(O146)、赤痢菌(フレキシネル2a)、サルモネラ(O8群)、腸炎ビブリオ(O3:K6)各1株と多岐にわたっていた。インド亜大陸への旅行者13名のうち陽性者は3名(23.1%)で、その全てから毒素原性大腸菌(ST産生1株、LT産生2株)が検出され、カンピロバクターとエロモナスも各1株検出された。韓国・北朝鮮への旅行者12名では、1名(8.3%)が陽性で、カンピロバクターが検出された。中国・モンゴルへの旅行者7名では、1名(14.3%)が陽性で、赤痢菌(ソンネ)が検出された。西アジアへの旅行者は5名で、そのうち4名(80.0%)が陽性で、毒素原性大腸菌(ST産生)とカンピロバクターが各2株、エロモナス1株であった。アフリカへの旅行者5名では、2名(40.0%)が陽性で、カンピロバクターと病原血清型大腸菌(O55)各1株が検出された。また、その他の地域7名(中南米3名、ミクロネシア2名、アジア全域1名、ヨーロッパ1名)のうち陽性者は5名(71.4%)で、中南米への旅行者から病原血清型大腸菌(O126)2株と毒素原性大腸菌(ST産生)1株、アジア全域への旅行者から毒素原性大腸菌(LT産生)1株、ヨーロッパへの旅行者からカンピロバクター1株が検出された。
表.海外旅行者からの腸管系病原菌検出状況(東京都立衛生研究所 :2000年)
旅行地域 | 東南 アジア |
インド 亜大陸 |
韓国 北朝鮮 |
中国 モンゴル |
西アジア | アフリカ | その他 | 計 |
検査件数 | 29 | 13 | 12 | 7 | 5 | 5 | 7 | 78 |
病原菌陽性者数 (%) |
14 (48.3) |
3 (23.1) |
1 (8.3) |
1 (14.3) |
4 (80.0) |
2 (40.0) |
5 (71.4) |
30 (38.5) |
検出病原菌 毒素原性大腸菌 カンピロバクター 病原大腸菌・血清型 プレジオモナス コレラ菌(毒素産生) エロモナス 赤痢菌 サルモネラ 腸炎ビブリオ |
6 3 1 4 3 0 1 1 1 |
3 1 0 0 0 1 0 0 0 |
0 1 0 0 0 0 0 0 0 |
0 0 0 0 0 0 1 0 0 |
2 2 0 0 0 1 0 0 0 |
0 1 1 0 0 0 0 0 0 |
2 1 2 0 0 0 0 0 0 |
13 9 4 4 3 2 2 1 1 |
同一検体から複数菌が検出される場合があるので病原菌陽性者数と検出病原菌数とは一致しない。