2000/2001年冬季に東京都内で分離されたインフルエンザウイルスの解析(第22巻、2号)
2001年2月
2000/2001 年冬季のインフルエンザの流行について東京都立衛生研究所で実施した分離ウイルスの検査結果に基づき概要を報告する。
今季、当所では2000年10月12日から2001年2 月22日までに搬入された学校などで発生したインフルエンザ様疾患集団発生20事例を対象に、79検体について遺伝子検査、ウイルス分離試験および血清学的検査を実施した。
インフルエンザの集団発生は例年より遅く、1月23日に発生した南多摩保健所管内の小学校における集団事例が初発で、咽頭拭い液からAソ連(AH1)型ウイルスが検出された。以後の検査により、AH1型によるもの10集団、A香港(AH3)型によるもの2集団、B型によるもの4集団、AH1型とB型の混合によるもの2集団が確認され、都内におけるAH1型、AH3型、B型の3種類のウイルスによるインフルエンザの流行が明らかになった。
国立感染症研究所より配布された2000/2001 年シ−ズン用血清を用いて、各集団のウイルス分離株についてHI試験を実施した。さらに、各株のウイルス核酸RNAを抽出し、HA遺伝子領域をRT−PCR法により増幅し、塩基配列を決定し、さらにアミノ酸配列に置換した。得られたアミノ酸配列を1999/2000 年、2000/2001 年のワクチン株、近年の流行株のアミノ酸配列と比較した。今冬季分離されたB型株(B/東京/79/2001) は今季B型ワクチン株(B/山梨/166/98)抗血清との反応性は低かった。同分離株のHA領域のアミノ酸配列の他のウイルス株との相同性は今季ワクチン株とは97%,1999年に分離されたヨハネスブルク株と98.5%,2000年大阪府門真で分離された門真株と99.5% であった。今冬季の各地で分離されたB型ウイルス株が抗原的にヨハネスブルク株に近いとの感染研からの速報と一致した結果であった。
一方、AH1型分離株(A/東京/72/2001) は今季ワクチン株(A/ ニュ−カレドニア/20/99) 抗血清との反応性が高かった。アミノ酸配列を比較した結果、今季ワクチン株と98.6% 一致した。やはり感染研の速報で今季の各地のAH1型分離株が抗原的に今季ワクチン株に近いという結果に相応している。
同様に、AH3型分離株(A/東京/39/2001) も今季ワクチン株(A/パナマ/2007/99) 抗血清との反応性が高く、アミノ酸配列もワクチン株と98.1% 一致した。これも感染研の速報の今季各地の分離株の抗原性がパナマ株に近いとの結果と一致している。なお、感染研の病原体検出情報によれば、昨冬季の全国の分離AH3型ウイルスはアミノ酸配列がパナマ株に近いにもかかわらず抗原的には昨冬季のワクチン株(A/シドニ−/05/97) に近いものが多かったが、今季のAH3型分離株はこれまでのところアミノ酸配列、抗原性、共に今季ワクチン株に近いものが多い。