平成12年におけるロタウイルスによる感染性胃腸炎の発生について(第22巻、5号)
2001年5月
感染性胃腸炎は、細菌を原因とするものとウイルスを原因とするものに大きく分けられる。細菌性の胃腸炎は夏場に、ウイルス性の胃腸炎は冬場に多い。原因ウイルスとしては、ロタウイルス、小型球形ウイルス(small round structured virus:SRSV) ,アデノウイルス、カリシウイルス、アストロウイルス等が知られている。ウイルスによる胃腸炎は糞口感染が主要ル−トであるが、嘔吐物による飛沫感染も報告されている。ロタウイルスによる胃腸炎は毎年冬に発生のピ−クがあり、生後6ケ月から2歳までが好発年齢とされている。一度感染すると終生免疫が得られるため、小児期にほとんどの人が免疫を獲得するが、大量のウイルスに暴露、或いは免疫力の低下によって再感染、再罹患もありうる。人に感染するのは主にA群、B群、C群の3タイプであるが、一般にはA群による胃腸炎の発生が多い。
平成12年1月から12月末日にかけて、衛生研究所ウイルス研究科に感染症発生動向調査定点病院から搬入された感染性胃腸炎の糞便検体135件について原因ウイルスを検索した。
また、同じ期間に衛生研究所多摩支所微生物研究科に搬入された感染性胃腸炎の糞便検体237件についても原因ウイルスと原因細菌を検索した。
ウイルス研究科における検査結果を表1及び表2に示したが,A群ロタウイルス27件、小型球形ウイルス(SRSV)25件、アデノウイルス3件が検出された。1月から2月まではSRSVの検出数が多かったが、3月以降はロタウイルスの検出数がSRSVの検出数を上回り、5月まで流行が確認された。11月から再びSRSVとロタウイルスによる胃腸炎の発生が認められた。6歳以上の者2名、20歳以上の者4名と、ロタウイルス感染症としては比較的高い年齢層の者が認められたのが特徴であった。
表3の多摩支所微生物研究科の検査ではA群ロタウイルス20件、SRSV9件、アデノウイルス3件、腸管系病原菌44件が検出された。2月から5月にかけてA群ロタウイルスが検出され、冬季の11月からSRSVによる胃腸炎、12月にA群ロタウイルスによる胃腸炎の発生が再び認められた。腸管系病原菌は7月から9月の夏期を中心に検出された。
これらとは別に感染性胃腸炎の集団発生が4月と5月に各1件、小学校で発生し、いずれの事例からもA群ロタウイルスが検出された。事例1では患者は全学年にわたり認められ、事例2では校舎3階の学級に限局して認められた。原因ウイルスのVP7領域の遺伝子の配列を決定したところ、事例2は通常認められるVP7血清型の2型によるものであったが、事例1は希な血清型であるVP7血清型の9型によるものであった。
表1 ウイルス研究科に搬入された感染性胃腸炎の糞便検体から検出されたウイルス件数
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 合計 | |
ロタ | 1 | 3 | 11 | 3 | 5 | 1 | 2 | 1 | 27 | ||||
アデノ | 1 | 1 | 1 | 3 | |||||||||
SRSV | 3 | 5 | 3 | 1 | 14 | 25 | |||||||
陰性 | 13 | 3 | 10 | 8 | 9 | 6 | 7 | 5 | 3 | 6 | 6 | 3 | 80 |
合計 | 17 | 11 | 25 | 11 | 14 | 7 | 8 | 5 | 3 | 6 | 9 | 19 | 135 |
表2 年齢別ウイルス検出件数
ロタ | アデノ | SRSV | |
乳児(0〜1) | 12 | 3 | 9 |
幼児(2〜5) | 9 | 0 | 2 |
児童(6〜18) | 2 | 0 | 6 |
成人(20〜) | 4 | 0 | 8 |
合計 | 27 | 3 | 25 |
表3 多摩地区感染症発生動向調査で糞便から検出されたウイルス・細菌件数
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 計 | |
ロタ | 6 | 4 | 7 | 2 | 1 | 20* | |||||||
アデノ | 1 | 1 | 2 | ||||||||||
SRSV | 3 | 6 | 9 | ||||||||||
細菌 | 1 | 1 | 3 | 2 | 3 | 13 | 7 | 8 | 1 | 3 | 2 | 44** | |
陰性 | 13 | 11 | 11 | 7 | 11 | 12 | 27 | 13 | 17 | 15 | 6 | 19 | 162 |
合計151716171515402025171228237
* 1歳未満:7名、1〜4歳:11名、20歳以上:2名
**細菌にはカンピロバクタ−、病原大腸菌、エロモナス、サルモネラなどを含む。
表4 胃腸炎集団発生で検出されたロタウイルス
時期 | 患者数 | 検出ウイルス数 | VP7血清型 | 発生場所 | |
事例1 | 4月 | 132名 | A群ロタ 22件 | 9型 | 小学校 |
事例2 | 5月 | 30名 | A群ロタ 20件 | 2型 | 小学校 |
微生物部 ウイルス研究科 長谷川道弥、林 志直