東京都健康安全研究センター
都内流通シラウオからの横川吸虫メタセルカリアの検出状況について

都内流通シラウオからの横川吸虫( Metagonimus yokogawai )メタセルカリアの検出状況について(第22巻、6号)

2001年6月

 


 

 横川吸虫( Metagonimus yokogawai )は1911年に横川定が台湾のアユから1種の被嚢幼虫であるメタセルカリアを発見し,1912年に桂田富士郎がこれを新種として命名したことに始まる.その後本吸虫について研究が行われ,その第2中間宿主がアユ,ウグイ,シラウオ,ヤマメなどであり,それらに寄生しているメタセルカリアを多数経口摂取することにより,人体に感染して腹痛,下痢等の腸炎症状を引き起こすことが明らかとなった.しかし,1980年以降,成人の集団検便が行われなくなり,自覚症状を訴えるのは横川吸虫のメタセルカリア(以下,メタセルカリアとする)を多数経口摂取した者の一部のみにすぎないということから,横川吸虫症は医学的に目を向けられることが少なくなっていた.

 ところが近年,グルメブームに加え,鮮魚,活魚などの低温・広域流通の発達に伴い,魚介類の生食を原因とするアニサキス,旋尾線虫,顎口虫などの寄生虫症が増加してきた.横川吸虫も例外ではなく,山門らにより1991〜1995年の5年間に,都内1病院での人間ドック受診者のうち65名(1995年:人間ドック受診者に占める本虫感染率は2.7%)が本虫に感染していたことが報告された.その後,本虫の感染率は年々増加傾向にあり,1998年には1年間で人間ドック受診者のうち53名(感染率6.3%)に感染が認められた.そこで,生食する機会が増加しているシラウオについて,1998〜1999年に都内の市場で生食用として販売,流通しているシラウオを産地別に購入し,100尾1検体として合計108検体についてメタセルカリアの寄生状況について調査を行った.

 メタセルカリアの寄生状況を産地別にみると,表1に示したように宮城県名取市及び茨城県霞ヶ浦産シラウオは全検体からメタセルカリアが検出された.特に,霞ヶ浦産のシラウオは,シラウオ100尾当たりの平均メタセルカリア寄生率が88%と高率で,感染シラウオ1尾当たりのメタセルカリア寄生数も平均24個体,最多314個体であった.一方,他産地のシラウオでは100尾当たりの平均寄生率はいずれも0〜16%と低く,1尾当たりの最多寄生数も5個体以下であり,感染の危険性は霞ヶ浦産のシラウオと比べ高くないものと推察された.

 次に,メタセルカリアが高度に寄生していた茨城県霞ヶ浦産シラウオに着目し,その寄生状況の月別変動を調査した結果を表2に示した.シラウオ100尾当たりのメタセルカリア寄生率は検体採取月により差がみられ,シラウオ漁の解禁月である7月は40%であったのに対し,8月以降は平均寄生率が80〜100%に倍増し,9月にはシラウオ1尾当たりメタセルカリアの平均寄生数が40個体以上,最多寄生数も300個体以上認められた.

 今回調査した13産地のうち4産地,特に茨城県霞ヶ浦産のシラウオからメタセルカリアが高率かつ多数検出された.また,都内においてはシラウオと比べ,生食用として天然物のアユやウグイなどの流通量は限定されていることから,横川吸虫症の主要な感染原因は,メタセルカリアが多数寄生した特定産地のシラウオの生食であると考えられた.また,都内病院の人間ドックにおいて増加傾向にある横川吸虫症の感染原因の1つにもなっていると推察された.

 アユ,シラウオなどのメタセルカリア寄生防止策として,戦後の日本住血吸虫撲滅対策の成功例を参考にして,1)本虫の第1中間宿主のカワニナ(淡水産の巻き貝)対策,2)終宿主であるヒトや哺乳動物のし尿対策,3)生産地での住民検診と薬による駆虫など,長期的な対策を講じる必要がある.しかし,当面の本吸虫感染防止策としては,生食用シラウオの「産地表示」を明確にし,本吸虫寄生率が高い産地のシラウオについては,「加熱調理用」と表示することが必要であろう.

表1 産地別シラウオの横川吸虫メタセルカリア寄生状況(1998-1999)

産地 陽性率

(陽性数/検体数)

平均

寄生率

メタセルカリア数 / シラウオ1尾
平均寄生数 最多寄生数
網走(北海道)

小川原湖(青森県)

女川(宮城県)

名取市 (〃)

松島 (〃)

請戸川(福島県)

いわき(〃)

北茨城(茨城県)

久慈川 (〃)

霞ヶ浦 (〃)

銚子(千葉県)

赤穂(兵庫県)

宍道湖(島根県)

0 % (0/28)

0 (0/11)

0 (0/3)

100 (3/3)

50 (1/2)

0 (0/3)

0 (0/3)

0 (0/6)

0 (0/6)

100 (32/32)

0 (0/3)

0 (0/3)

40 (2/5)

0 %

0

0

16

1

0

0

0

0

88

0

0

2

-

-

-

<1

<1

-

-

-

-

24

-

-

<1

-

-

-

5

1

-

-

-

-

314

-

-

1

* : 1検体当たり100尾のシラウオについて調査した

表2 霞ヶ浦産シラウオの横川吸虫メタセルカリアの月別寄生状況

陽性数/検体数

(陽性率%)

平均

寄生率

メタセルカリア数 / シラウオ1尾
平均寄生数 最多寄生数
1998 10月

     11月

     12月

1999 7月

     8月

     9月

4/4(100)

4/4(100)

9/9(100)

3/3(100)

3/3(100)

9/9(100)

95%

91

85

40

100

99

22

18

17

1

13

46

208

175

194

30

69

314

 

微生物部 細菌第二研究科 鈴木 淳

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