2001-2002 年冬季に東京都内で検出されたインフルエンザウイルスの性状(第23巻、1号)
2002年1月
2001-2002 年冬季のインフルエンザの流行について、東京都立衛生研究所で実施したウイルス検査結果と分離株の解析結果の概要を報告する。
2001年12月14日から2002年2月25日までに小中学校で発生したインフルエンザ様疾患の集団発生24事例、89検体を対象に遺伝子検査、ウイルス分離試験および血清学的検査を実施した。
今冬季のインフルエンザ集団発生時期は昨年と同様に遅く、初発は1月21日に発生した三鷹武蔵野保健所管内の小学校における集団発生事例で、咽頭うがい液からA香港(AH3)型ウイルスが分離された。また、同日に搬入された八王子保健所管内の中学校で発生した集団事例では、Aソ連(AH1)型ウイルスが分離された。この2事例を始めとして、1月21日から2月25日までの間にAH1型による7集団、AH3型による9集団、B型による3集団、AH1型とAH3型の混合による1集団の発生が確認され、都内における3種類のウイルスによるインフルエンザの流行が明らかになった。
各集団のウイルス分離株については、国立感染症研究所(感染研)配布の2001-2002年シ−ズン用フェレット感染血清を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験により型別同定を実施した。さらに、各株のウイルスRNAを抽出し、HA遺伝子領域(566アミノ酸)の一部をRT−PCR法により増幅後、塩基配列を決定した。これらの塩基配列をアミノ酸配列に置換し、2001-2002年シーズンのワクチン株を含む近年流行ウイルス株のアミノ酸配列と比較した。
AH1型分離株(A/Tokyo/112/2002他)の型別同定HI試験をワクチン株(A/Newcaledonia/20/99)に対する抗血清(ワクチン株とのホモHI価640倍)を用いて実施したところ、HI価は640倍という高い反応性を示し、今冬季分離株の抗原性がワクチン株に近縁であることを示した。また、同分離株のHA領域のアミノ酸配列は、今季ワクチン株との相同性が高く、配列を決定した57アミノ酸中1アミノ酸の違いにすぎなかった(図1)。
AH3型分離株(A/Tokyo/106/2002他)に対するワクチン株(A/Panama/2007/99)抗血清(ワクチン株とのホモHI価640倍)のHI価も、1280倍と高く抗原的にワクチン株に近かった。同分離株のHA領域のアミノ酸配列は、配列を決定した103アミノ酸中3アミノ酸がワクチン株と異なっていた。(図2)。
一方、B型分離株(B/Tokyo/127/2001他)に対するワクチン株(B/Johannesburg/5/99)抗血清によるHI価は、20倍(同抗原とのホモHI価は160倍)と低力価であった。さらに、群型別をする目的でビクトリア系統に属するB型株(B/Akita/27/2001、B/Beijing/243/97、B/Shangdong/7/97)抗血清および今冬期ワクチン株が属する山形系統のB型株(B/Yamanashi/166/98、B/Mie1/93)抗血清との反応性をみたところ、ビクトリア系統の抗血清とはそれぞれ40倍、20倍、10倍(同抗原とのホモHI価それぞれ160倍、40倍、20 倍)のHI価を示したが、山形系統の抗血清とはHI価が全て10倍以下(同抗原とのホモHI価は640倍、5120倍)となり、分離株はビクトリア系統に属する株であることが示唆された。分離株のHA領域のアミノ酸配列の比較では、ワクチン株とは68アミノ酸中10アミノ酸が異なっていたのに対し、ビクトリア系統株であるB/Beijing/243/97株とは1アミノ酸、B/shangdong/7/97株とは2アミノ酸の相違であり、アミノ酸配列上もビクトリア系統株に近縁であった(図3)。
以上、都内における今冬季分離株は、血清学的解析からもHA遺伝子解析からも、AH1型及びAH3型は今季ワクチン株と類似しており、B型は異なった抗原性であることが判った。同様の結果は、感染研や他の地方衛生研究所からも報告されており、B型については国内の他の地域で山形系統のウイルスも報告されていることから、今後の都内における動向が注目される。