平成14年度呼吸器系感染症発生動向調査について(第23巻、4号)
2002年4月
呼吸器系疾患を引き起こす代表的なウイルスといえば、インフルエンザウイルスがよく知られている。確かにインフルエンザは呼吸器系疾患の中でもその症状の重篤さ、感染力の強さなどから、最も注意すべき疾患である。しかし、その他にも呼吸器系疾患を引き起こすウイルスは多数存在し、冬のみならず、夏の発症も多く、一年を通して「風邪様疾患」の原因となっている。
今回は感染症発生動向調査事業のもとに搬入された検体の検査結果から、呼吸器系疾患患者検体からのウイルス検出状況をまとめたので報告する。
平成13年4月から14年3月末までの間に,小児科及び基幹定点より、2,022件の検体が搬入された。うち、呼吸器系感染症と診断されたもの、若しくは臨床症状において呼吸器系統の炎症症状を呈していた患者の検体は760検体であり検体全体の37%を占めていた。その臨床診断名の内訳は、インフルエンザ164件、上気道炎295件(扁桃炎、咽頭炎、クループ症候群、咽頭結膜熱等を含む)、下気道炎301件(気管支炎、細気管支炎、肺炎、喘息等を含む)であった。
2001/2002冬季においては肺炎、気管支炎喘息等の疾患患者の検体がインフルエンザ患者の検体よりも多く搬入されていた。
呼吸器系疾患患者検体760検体より分離された149株のウイルスを表に示した。
インフルエンザ患者の咽頭拭い液からはインフルエンザウイルスAH1型、AH3型、B型の3種がすべて分離された。最も多く分離されたのは、AH3型(31株)であり、AH1型とB型の分離数は同数(12株)であった。
上気道炎患者検体からはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポリオウイルス1型、エコーウイルス11型が分離された。最も多く分離されたのはアデノウイルス3型(27株)であった。
下気道炎患者検体からは、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、コクサッキーウイルスB群3型、ムンプスウイルスが分離された。最も多く分離されたのはアデノウイルス2型であった。
一方、遺伝子検査からは262件が遺伝子検出陽性となり、その結果を表に示した。
インフルエンザ患者の検体からは、インフルエンザウイルス遺伝子以外にアデノウイルス遺伝子が検出され、その割合はすべてのウイルス遺伝子検出数の18.5%であった。
上気道炎患者検体からはアデノウイルス遺伝子が圧倒的に多く検出され、すべてのウイルス遺伝子検出数の67.2%を占めていた。次いでインフルエンザウイルスが多く、20.7%であり、その他、RSウイルス、EBウイルス、ヒトヘルペスウイルス6型、麻疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルスが検出された。
下気道炎患者検体からは、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルスのほか、EBウイルス、麻疹ウイルス、SRSVが検出された。上気道炎と同様に下気道炎からも、アデノウイルスの遺伝子が最も多く検出された。なお、SRSV遺伝子は喘息性気管支炎患者の糞便から検出されたものであった。
平成13年度の呼吸器系ウイルス遺伝子月別検出状況を図に示した。
2001/2002冬季のインフルエンザの流行の特徴をウイルスの検出結果から観察すると、平成14年1月16日に搬入されたクループ症候群患者の検体からインフルエンザウイルスAH3型の遺伝子が検出されたのを皮切りに、AH1型とAH3型がほぼ同時に発生し、2月に検出数のピークを迎えると同時にB型が検出されたことから、これら3種のインフルエンザウイルスがほぼ同時に流行したことが推察された。
アデノウイルス遺伝子は一年を通して検出されたが、まず6〜7月をピークとする流行がみられ、その後、一旦やや下火になった後、冬に向かって再び緩やかに増加した。この傾向は去年と同様であった。呼吸器疾患患者から分離されたアデノウイルスの血清型は偏りが大きく、アデノウイルスの2型と3型だけで分離アデノウイルスの93.1 %を占める結果となった。その様子を図に示した。
RSウイルスは7検体から遺伝子が検出された。去年と同様にインフルエンザ流行期前にピークがみられたが、今年は去年のような大きな流行はみられなかった。