東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(2001年)

コレラの発生状況(2001年)(第23巻、8号)

 

2002年8月

 


 厚生労働省において集計された2001年(1〜12月)における我が国のコレラ患者数は44名(真性患者33名、疑似患者11名)で、表1に示したように過去10年間では最も少ない件数であった。なお、特記すべき集団発生などは報告されていない。これらのうち、海外旅行者による輸入例は33件(真性患者24名、疑似患者9名)であった。推定感染国はインドネシア(11名)、フィリピン(6名)、タイ(5名)、インド(3名)、ネパ−ル(2名)、マレ−シア(1名)、香港特別行政区(1名)、シンガポ−ル(1名)、エジプト(1名)、中国(1名)、台湾(1名)となっている。一方、海外旅行歴のない国内発生例は11件(真性患者9名、疑似患者2名)であった。本年の真性患者からの分離コレラ菌の血清型は、輸入例由来24株では17株が小川型、7株が稲葉型であったが、国内例由来9株では1株のみが小川型で、8株は稲葉型であった。

 次に、WHOの報告 (WHO Weekly Epidemiological Record,77(31),2002)に基づき2001年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルト−ルコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに報告された2001年の患者数は、前年(137,071名) より約34%増の184,311 名で、死者数は2,728 名であった。発生を報告した国(地域)は前年より1か国多い57か国であった。世界全体の致死率は2000年の3.6 %から1.48%にまで低下したが、これは世界全体の58%に当たる患者数が報告された南アフリカにおける致死率が0.22%と極めて低率であったことを反映したもので、それを除いた致死率は3.2 %であり、例年と大差ない結果となっている。

 アフリカ大陸では28か国から患者数173,359 名(全体の94%、前年の46%増)、死者数2,590 名が報告された。最大の集団発生は南アフリカ(106,151名)で、この発生に端を発して近隣のモザンビ−グ(8,794名)、スワジランド(5,612名)及びザンビア(3,109名)も影響を受け患者が続発した。また、チャド(5,244名)での発生では燐国の北部カメル−ンにも流行が波及した。西アフリカにおいても、同起源と考えられる流行がコ−トジボア−ル、ガ−ナ、ト−ゴ及びベナンで発生し、全体で前年の約4倍に当たる患者数(18,038名)が報告された。

 アメリカ大陸での報告数は前年に引き続き著明に減少し、8か国から535名報告されたにとどまり、死者の報告はなかった。その主因はブラジル(7名;前年715名)、ガテマラ(13名;前年612名)及びペル−(494名;前年934名)における大幅な患者減による。なお、2000年に631名報告されたエルサルバドルからの報告はなかった。

アジアでは13か国から患者数10,340名、死者数138名が報告された。これは前年とほぼ同様である。報告数が最も多かったのはアフガニスタン(4,499名)で、前年(4,330名)に引き続いて流行している。他の国では、インド(4,081名)、東チモ−ル(561名)、マレ−シア(557名)、フィリピン(174名)、中国(140名)、韓国(138名) において報告が多かった。

 ヨ−ロッパでは5か国から患者数58名が報告された。ロシア連邦(53名)を除く、フランス(2名)、ドイツ(1名)、アイルランド(1名)及びスペイン(1名)からの報告はいずれも輸入例であった。死者の報告はなかった。

 オセアニアでは3か国から患者数19名が報告された。ミクロネシア(14名)を除く、オ−ストラリア(4名)とニュ−ジ−ランド(1名)からの報告は輸入例である。死者の報告はなかった。

 以上のように、世界全体で見ると、多くの国で疾病伝播阻止に向けた努力が払われたにもかかわらず、コレラは再び増加に転じる兆しを見せている。なお、旅行や貿易面での不当な制限に対する懸念、またサ−ベイランスや報告システムなどの問題に起因する報告もれがあるため、公式に報告された患者数がコレラの全体的な問題点を十分には反映していないのが現状である。

 

表1 我が国におけるコレラの発生状況

年次 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
輸入事例
国内事例
49(18)
3( 0)
99(16)
3( 0)
90(16)
24( 1)
341(36)
31( 5)
49( 9)
13( 1)
65( 8)
36(10)
66(12)
7( 0)
45(10)
6( 0)
41(6)
11(1)
33( 9)
11( 4)
合計 52(18) 102(16) 114(17) 372(41) 62(10) 101(18) 73(12) 51(10) 52(7) 44(13)

( ):東京都分再掲

 

表2 世界のコレラ発生状況(WHO Weekly Epidemiological Record)

年次 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
報告国数
罹患者数
68
461,783
78
376,845
94
384,403
78
208,755
71
143,349
65
147,425
74
293,121
61
254,310
56
137,071
57
184,311

多摩支所 微生物研究科 松下 秀

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します ご利用にあたって
© 2023 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.