東京都健康安全研究センター
A型肝炎・E型肝炎の発生とウイルスの検出について

(第24巻、2号)    2003年2月


  食品や水の摂取等により経口感染する肝炎ウイルスとして、A型(HAV)およびE型(HEV)の2種類が知られている。A型肝炎の発生は、全国で年間700例余りが報告されている(病原微生物検出情報:IASR)のに対し、E型肝炎の国内での報告は極めて少数である。しかし、E型肝炎は、アジア地域を中心とした諸外国では多数発生しており、特に妊産婦が罹患した場合、致死率は20%もの高率になる事が明らかにされている。わが国における調査(1993年)では、HEV抗体保有率は5.4%(49/900)で、 年齢が高くなる程保有率の高いことが報告されている。また、国内で飼育されているブタからも遺伝学的に極めて類似のウイルスが検出されており、国内に定着した可能性もあることから、今後、注意を払うべき疾患といえる。

 HAV、HEVの感染診断は、患者血清のIgM抗体検査により実施可能であるが、感染経路等の疫学的背景の詳細な情報を得るためには、遺伝子検査を実施する必要がある。遺伝子検査では、患者のふん便または血清よりウイルスRNAを抽出し、特定の遺伝子領域をRT-PCR法、nestedPCR法により増幅することでウイルス遺伝子の有無を調べると同時に、増幅された遺伝子の塩基配列を決定する事により感染診断とウイルス遺伝子の疫学的特徴の把握が可能となる。得られた遺伝子配列は、既知のNCBI登録遺伝子配列を基に作成した肝炎ウイルス遺伝子の系統樹に外挿することで、NCBIに登録された肝炎遺伝子配列との比較解析が可能である。東京都ではHAV遺伝子配列の近似性によりHAV株を系統樹上でS1〜S14までの14個のサブグループに分類し、このサブグループ分類を用いて都内で発生するHAV遺伝子の特徴を解析している。

 東京都における大規模なA型肝炎事例としては、平成13年に都内全域で散発的に発生した事例と平成14年4月に発生したA型肝炎ウイルス(HAV)による2つの集団食中毒事例があげられる。散発例の積極的疫学調査では、16名の感染者間に人的つながりは無く、遺伝子検査を行った8名から検出されたHAVは全て遺伝子ⅠA型のウイルスであったが5種類のサブグループ(S1a、S2、S3b、S6aS7)に分かれていたことから、複数の散発発生例と推察された。一方、食中毒の第1事例は、2002年3月末に、中国産ウチムラサキ(通称:大アサリ)を原因食とする小型球形ウイルスによる食中毒事件の後、4月末に同一集団から肝炎患者5名が発生した事例である。これら患者から検出されたHAVは、遺伝子型では全てⅠA型のウイルスであったが3種類のサブグループ(S2、S6a、S12型)に分かれたため、原因食となった大アサリは、少なくとも3種類の異なるHAVに汚染されていたものと推察された。第2事例は、2002年3月上旬に会社の会合で寿司店から出前された「にぎり寿司」を喫食または同寿司店を訪れて、「にぎり寿司」等を喫食した22名が肝炎を発症した事例である。調理従事者を含む17名の遺伝子検査の結果、遺伝子型は全てⅠA型のウイルスで、サブグループ型も単一(S6b型)であり、遺伝子型配列も合致したことから、先行発症した調理従事者から寿司食材または調理器具を介したHAVの単一暴露が主原因であることが明らかとなった。

 IASRによると感染症発生動向調査におけるE型肝炎の国内報告例は、1999年4月〜2002年9月の間に全国で7例あり、このうちHEVが確認されたのは4例で、遺伝子検出が2例、ELISA法による抗体検出が2例であった。推定感染地は国外3例(中国、インド・ネパール、インド)、国内1例とのことであった。HEVの遺伝子型は現在4つに分類されており、日本では渡航歴のない患者やブタから検出されたⅢ型と、最近、中国や日本の散発例患者から検出され、ベトナムでの主な流行株でもあるⅣ型が検出されている。しかし、患者血清は、これら4種類の遺伝子型株との反応性を示すことから、血清型は同一であると考えられている。

これらの肝炎ウイルスは、潜伏期が約1ヶ月と長いため、その予防手段としては、徹底した手洗いの励行、食品の十分な加熱調理が重要である。また、食品製造およびサービス業等の従事者がA型、E型肝炎を発症した時には、ウイルス感染粒子の排出がないことを確認するまでの就業を制限する等、何らかの予防措置についても検討する必要があろう。

  

A型肝炎とE型肝炎の比較  

  主な感染源 潜伏期 経過
A型肝炎 食物(二枚貝等),飲料水等 2〜6週間
平均30日
致死率は低いが,1%程度が劇症肝炎,
多くの予後は軽快
E型肝炎 飲料水等 2〜9週間
平均40日
致死率は10%程度(妊産婦は20%),
小児時感染は軽症

   

 HAVとHEVの比較  

  分類 形態 遺伝子型 血清型
HAV ピコルナウイルス科
ヘパトウイルス属
正20面体 7種類9型 1種類
HEV 未分類 球 形 4種類4型 1種類

微生物部 ウイルス研究科 

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