東京都健康安全研究センター
平成14年の食中毒発生状況

平成14年の食中毒発生状況(第24巻、5号)

 

2003年5月

 


 平成14年の全国及び東京都における食中毒の発生状況が、厚生労働省医薬局食品保健部並びに東京都健康局食品医薬品安全部でまとめられたので、それらの資料に基づき、その概要と特徴について紹介したい。

 平成14年に全国で発生した食中毒の大きな特徴は、前年に引き続き、小型球形ウイルス(SRSV)による食中毒の急増である。患者数では、サルモネラや腸炎ビブリオによる食中毒を上回って第1位、事件数でも患者数2名以上の食中毒事例の集計(本稿には未掲載)では、第1位になっている。また、2類感染症起因菌であるコレラ菌や赤痢菌による食中毒が各2例ずつ報告された。これらの2類感染症起因菌による食中毒が明確に報告されるようになったのは、平成11年の食品衛生法の一部改正以来である。さらに、死亡者18名の報告は、昭和59年の21名以来の多人数であった。

 全国で発生した食中毒事件総数は1,848件、患者数は27,412名であり、前年に比べ事件数は微減(前年比0.96倍)、患者数は微増(前年比1.07倍)であった。1事件あたりの患者数が500人を超えた大規模食中毒は前年1事件であったのに対し、平成14年は6事件と多かった。

 事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒は全体の74.5%を占め、第1位は平成元年以来急増したサルモネラで465件(25.2%)、第2位はカンピロバクタ−・ジェジュニ/コリで447件(24.2%)、第3位は腸炎ビブリオで229件(12.4%)であった。以下、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く)83件(4.5%)、黄色ブドウ球菌72件(3.9%)、ウエルシュ菌37件(2.0%)、腸管出血性大腸菌13件(0.7%)、エルシニア・エンテロコリチカ8件、セレウス菌7件、そしてナグビブリオ、コレラ菌、赤痢菌が各2件の順であった。第1位のサルモネラ事件数は前年比1.29倍に増加、腸炎ビブリオは平成10年をピークに年々減少し、前年比は0.74倍であった。

 細菌性食中毒の患者数は、サルモネラ、ウエルシュ菌、腸炎ビブリオの順で多かった。大規模食中毒6事件は、サルモネラによる3事件(患者数:905名、725名、644名)とウエルシュ菌による3 事件(患者数:887名、687名、540名)であり、6事件中4事件の原因食品は「弁当」であった。

 赤痢菌による2事件は、3月に発生した小学校の調理実習が原因と推定された事件( S.sonnei 、患者17名)と、5 月に飲食店で発生した事件( S.flexneri 3A、患者19名)である。

 細菌性食中毒の死者は11名で、その内9名は、平成14年8月に老人福祉施設で発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒によるものであった.この事件の患者数は123名であったが、1事件あたりの死者数は過去最大のO157事件となった。「香味和え(ゆでほうれん草、蒸しささみ、ねぎ、生しょうが)」から原因菌が分離され、原因食品とされた。他の2名(2事件)は、それぞれ家庭で発生したサルモネラ( 血清型Enteritidis)食中毒によるものであった。

 SRSVによる食中毒は、事件数267件(14.4%)、患者数7,746名(28.3%)で、前年同様、近年急増している。その原因は、検査法が進歩・普及してきたことも大きな要因であるが、自然界の汚染が拡大してきたことも推定される。SRSVによる事例では、それが食中毒であるか感染症であるかの判断が非常に難しく、その予防対策が急務となっている。

 植物性自然毒による食中毒は79件(4.3%)、患者数297名で、トリカブトの誤食による死者1名が報告された。動物性自然毒による事件数は44件(2.4%)、患者数75名で、死者6名(5事件)はすべてフグによるものであった。

 一方、東京都における食中毒発生状況は、事件数118件(患者数2,849名)で、平成13年の77件(患者数934名)と比べ、事件数で1.53倍(患者数で3.05倍)であった。これらの内、細菌性食中毒は75件、第1位はカンピロバクタ− ・ジェジュニ/コリで25件(患者数185名)、第2 位は腸炎ビブリオで24件(患者数216名)、第3位はサルモネラの9件(患者数66名)、以下、黄色ブドウ球菌6件、ウエルシュ菌5件、セレウス菌2件、腸管出血性大腸菌および病原大腸菌(腸管凝集接着性大腸菌推定)各1件の順であった。

 カンピロバクタ−・ジェジュニ/コリによる食中毒は前年に比べ、事件数で2.27倍( 患者数1.73倍)に急増した。25件中14件が鶏肉の生食(刺身、タタキ等)、1 件は鶏肉からの2 次汚染が原因と推定された。腸炎ビブリオは全国での発生が減少していたが、東京都では、事件数で前年比1.50倍(患者数0.94倍)であった。一方、サルモネラは前年に比べ、事件数で0.60倍(患者数0.32倍)に減少した。サルモネラ食中毒9件の内、血清型Enteritidis によるものが6件で、依然としてEnteritidis による食中毒が主流であり、原因食品として鶏卵の関与が明らかに疑われた事件が3件あった。

 SRSVによる食中毒は、東京都でも急増しており、平成14年は事件数30件(前年比1.76倍)、患者数931名(前年比4.08倍)であった。30件中22件に「生カキ」、2件に「大アサリ(中国産ウチムラサキ)」の喫食が認められ、5件では従業員からの2次汚染が推定さ
れた。「大アサリ」の1 事件(患者78名、3月)は、SRSVとA型肝炎ウイルスの混合感染事例であった。「大アサリ」による食中毒は、前年から他自治体でも発生し、さらに麻痺性貝毒も検出されていた。その他のウイルスによる1事件はA型肝炎ウイルスによるもので、「にぎりずし」が原因食品と推定された。この事件ではA型肝炎に罹患した調理従事者からの2次汚染が原因と考えられた。

 化学物質による食中毒3件は、いずれもヒスタミンによるものであった。会社の2支店の社員食堂で提供されたカジキマグロのムニエル(仕入れ先は同じ)による事件(患者数8名、2名)、シイラの照り焼きによる事件(患者数5名)であった。植物性自然毒食中毒2件の内、1件はトリカブトの誤食、1件は里芋と誤食したクワズイモ(含有されているシュウ酸カルシウムが原因)によるものであった。

 一方、原因物質不明は7件(5.9%)のみで、食中毒全体の原因物質の判明率は94.1%と非常に高かった。不明の内の1事件(患者121名、学生寮の食事が原因と推定)は、プロビデンシア・アルカリファシエンス(PA菌)による食中毒と推定された。

 患者数100名以上の大規模食中毒は4件(ウエルシュ菌1件、SRSV2件、PA菌推定1件)であった。その内ウエルシュ菌の事件は患者数887名で、都内で18年ぶりに患者数800名を超えた大事件であった。この事件は、多種類の血清型菌(ウエルシュ菌では稀)による事件であり、従来の発生要因とは異なる要因も考えられた。
 

 

 

微生物部 食品微生物研究科 食中毒研究室

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