東京都多摩地区における感染性胃腸炎からの腸管系病原体検索成績(1997〜2002年)(第24巻、11号)
2003年11月
東京都健康安全研究センター多摩支所では、感染症発生動向調査事業の一環として、多摩地区の医療機関の協力で、平成3年から感染性胃腸炎(従来の乳児嘔吐下痢症を含む)患者からの腸管系病原体検索を実施してきている。本事業の各年における成績については「感染症発生動向調査事業報告書」において報告している。今回、最近6年間(1997-2002年)の成績についてまとめたので紹介する。
多摩地区の9定点医療機関において感染性胃腸炎と診断された患者の糞便を対象に、細菌学的(赤痢菌、チフス菌・パラチフスA菌を含むサルモネラ属菌、腸管病原大腸菌、腸炎エルシニア、病原ビブリオ、エロモナス、プレジオモナス、カンピロバクター)並びにウイルス学的(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス)検査を実施した。
年次別の病原体検出状況を見ると、1997年311件中124件(39.9%)、1998年356件中150件(42.1%)、1999年285件中109件(38.2%)、2000年233件中71件(30.5%)、2001年168件中57件(33.9%)、2002年151件中61件(40.4%)で、全体では1、504件中572件(38.0%)が陽性であった。これらのうち、病原菌の検出例は259件(17.2%)、ウイルスの検出例は330件(21.9%)であった。なお、両者が同時に検出された例が17件(1.1%)認められた。
表1に年齢区分別に見た病原体検出状況を示した。4歳以下ではウイルス、10歳以上では病原菌の検出頻度が高かった。検出病原体は多い順に、ロタウイルス156件(10.4%)、カンピロバクター97件(6.4%)、アデノウイルス95件(6.3%)、サルモネラ属菌85件(5.7%)、ノロウイルス71件(4.7%)、腸管病原大腸菌50件(3.3%)、エロモナス31件(2.1%)、腸炎ビブリオ12件(0.8%)、ポリオウイルス10件(0.7%)、コクサッキーウイルス9件(0.6%)、エンテロウイルス4件(0.3%)、プレジオモナス1件(0.1%)であった。検出されたサルモネラ属菌85株では13種の血清型(不明1株を除く)が認められ、Enteritidis(O9群)59株、Typhimurium(O4群)5株、Thompson(O7群)4株、Hadar(O8群)3株、Infantis(O7群)3株、Tenessee(O7群)2株、Litchfield(O8群)2株、Havana(O13群)、Agona(O4群)、Corvallis(O8群)、Breda(O8群)、Othmarschen(O7群)及びWeltevreden(O3、10群)がそれぞれ1株であった。検出腸管病原大腸菌50株の内訳は、病原血清型大腸菌(EPEC)34株、腸管出血性大腸菌(EHEC)9株、毒素原性大腸菌(ETEC)7株であった。
次に、月別に見た病原体検出状況を図1に示した。病原菌は7−9月の夏季に陽性率が高い。なお3月にもピークが認められているが、これは1998年にサルモネラ属菌Enteritidisによる集団事例に関連して本菌が高頻度に検出されたことによる。一方、ウイルスでは冬季から春季にかけて高く、夏季の発生率は低い。全体では、ウイルスの検出頻度が高い影響で3−4月に検出頻度のピークが認められている。この傾向はこれまでの成績とほぼ同様である。
本事業に御協力頂いている藤田医院(武蔵村山市)、さとう小児科医院(八王子市)、江崎小児科クリニック(多摩市)、桜井医院(稲城市)、水野小児科医院(府中市)、野上医院(立川市)、鈴木内科(あきる野市)、星野小児科内科クリニック(あきる野市)及び太陽こども病院(昭島市)に感謝いたします。
表1. 多摩地区における感染性胃腸炎からの年齢区分別病原体検出状況(1997〜2002年 )
年齢区分 | 検査件数 | 陽性件数(%) | 病原菌陽性(%) | ウイルス陽性(%) |
1歳未満 | 280 | 101(36.1) | 17( 6.1) | 86(30.7) |
1-4 | 471 | 197(41.8) | 44( 9.3) | 160(34.0) |
5-9 | 125 | 46(36.8) | 26(20.8) | 22(17.6) |
10-14 | 112 | 58(51.8) | 54(48.2) | 6( 5.4) |
15-19 | 55 | 27(49.1) | 25(45.5) | 2( 3.6) |
20歳以上 | 461 | 143(31.0) | 93(20.2) | 54(11.7) |
全 体 | 1,504 | 572(38.0) | 259(17.2) | 330(21.9) |
*病原菌とウイルスが同時に検出されることがあるので両者の和が陽性件数と一致しない場合がある。