東京都健康安全研究センター
2003/2004 年冬季に東京都内で検出されたインフルエンザウイルスの性状

2003/2004 年冬季に東京都内で検出されたインフルエンザウイルスの性状(第25巻、1号)

 

2004年1月

 


 2003/2004年冬季に東京都内で発生したインフルエンザ集団発生30事例、109検体を対象に、東京都健康安全研究センターで実施した遺伝子検査、ウイルス分離試験及び分離されたウイルスの解析結果について述べる。

 今冬季に都内各地区の小中学校で発生したインフルエンザ様疾患の集団発生は、2003年12月3日に板橋区保健所管内の小学校で発生した事例が初発で、咽頭うがい液からA香港(AH3)型ウイルスの遺伝子が検出された。また、12月15日に江戸川保健所管内の小学校で発生した集団事例からはAH3型ウイルスが今季初めて分離された。その後、2004年1月28日までに、AH3型による29事例、エコーウイルス11型による1事例の集団発生が確認された。

 各集団から分離されたウイルス株について、国立感染症研究所配布の2003/2004年シ−ズン用フェレット感染血清を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験により型別同定を実施した。さらに、各株のウイルスRNAを抽出し、HA遺伝子領域の一部をnested-RT-PCR法により増幅後、塩基配列を決定した。2003/2004年シーズンのワクチン株及び近年流行株と今季分離株を比較するために、これらの塩基配列をアミノ酸配列に置換し、遺伝子系統樹を作成して各株の比較を行った(図1)。

 今季分離されたAH3型株(A/Tokyo/7/2003他)に対するワクチン株(A/Panama/2007/99)抗血清(ホモHI価2560倍)によるHI価は、160〜640倍であり、ワクチン株のホモHI価と比べると低い反応性(1/16〜1/4倍)であった。一方、2004/2005シーズンのワクチン推奨株(A/Fujian/411/2002−福建株)近縁であるリファレンス株(A/Kumamoto/102/2002)抗血清(ホモHI価5120倍)によるHI価は、640〜5120倍となり今季ワクチン株抗血清よりも2〜4倍高い反応性を示した。また、今季分離株のHA領域のアミノ酸配列は、配列を決定した103アミノ酸中5〜7アミノ酸がワクチン株と異なっていたが、福建株とは2〜3アミノ酸の違いであった。これらより、今季のAH3型分離株は、ワクチン株の進化系統上にあり、福建株に近縁な株であることが判明した。

 今冬季、都内で流行したインフルエンザは区部からの発生が先行し、その後、都内全域に広がったことで、多摩地区が先行する例年とは異なった流行形態となった。流行したウイルスは福建株に近縁なAH3型株で、昨シーズンより同近縁株の流行が確認されている(図1)。この近縁株とワクチン株との抗原性状には若干の乖離が見られ、流行拡大の一因になったと推察された。流行のピークは2004年1月下旬(図2参照)であり、流行規模は、昨年を下回る模様である。一方、西日本および東アジアで猛威を振るっている鳥インフルエンザウイルス(H5N1)等の発生は、現在のところ東京都では確認されていないが、今後、新たなインフルエンザウイルスの侵入も懸念されることから、感染予防対策の強化が必要であると思われる。

 

図2 インフルエンザ患者報告数の推移

(感染症発生動向調査 :2004/02/20現在)

 

微生物部 ウイルス研究科 新開敬行

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