RSウイルス感染症について(第25巻、3号)
2004年3月
RSウイルスは1956年に上気道炎症状を呈するチンパンジーから最初に発見され、その後小児の呼吸疾患の原因ウイルスであることが判明したパラミクソウイルス科に属するRNAウイルスである。RSという名前はRespiratory Syncytial という名称を略したもので、Respiratoryは「呼吸器の」、Syncytialはこのウイルスが感染した培養細胞が多数集まってできる「合胞体(Syncytium)」を指す。
RSウイルス感染症では、一般に鼻水、咳、発熱等の症状を伴う急性上気道炎症状を呈し、多くの場合1〜2週間で軽快する。生後2歳までにほぼ100%の幼児が罹患するが、うち約30%に細気管支炎や肺炎等の下気道炎の発症がみられる。生後1年以内、特に生後6ヶ月以内の乳児や未熟児、循環器系の疾患を有する幼児においては重症化しやすく、呼吸機能の弱い老人や慢性肺疾患患者、免疫不全患者においても重症化する傾向があり注意が必要である。
米国ではRSウイルスによる小児入院患者は毎年12万人以上にのぼり、4500人の乳幼児が同疾患により死亡している。日本では平成15年11月の感染症発生動向調査実施要項の一部改正に伴って、RSウイルス感染症が5類感染症の定点把握対象疾病に加えられ、全国的な集計が開始されたばかりである。
東京都では平成12年からPCR法によるRSウイルスの発生状況調査を実施してきた。流行の大きさは年によって大きく異なるが、9月ごろから始まり、11月にピークを迎え、インフルエンザの流行時期に減少する傾向が見られる。(図.1)
当センターでの検査の結果、RSウイルスが検出された患者128人の年齢構成は、2歳以下が80%(102人)を占めていた。患者の臨床症状を比較すると、幼児、児童、学童等の若年齢層においては122人中113人(92.6%)が下気道炎症状を呈し、上気道炎症状を呈している例は9人(7.4%)のみであった。一方、成人では6人全員が上気道炎症状を呈しており下気道炎症状はなかった。性別では、男性70人、女性58人と男性が多く、特に1歳児では女性が8人だったのに対し男性は22人であり、男女間に2倍以上の差がみられた。成人患者6名のうち5名が女性であったが、このうち5名は病院に勤務する職員であり患者に直接触れる機会が多いために罹患したものと考えられた。
RSウイルスの診断法は培養細胞によるウイルス分離や血清診断がこれまで主であったが、ウイルスは温度変化に弱く、検体の凍結及び解凍時にウイルスが不活化され検出不能となってしまうため、これらの影響を受けにくい遺伝子検出法による検査が有効である。また、最近では迅速診断用キットの普及により病院内でも短時間で検査結果が得られるようになった。
RSウイルスの感染力は非常に強く、小児病棟における院内感染は昔から問題視されている。感染経路には飛沫感染と接触感染の2経路があるが、インフルエンザと異なり接触感染による感染が多いとされている。患者の鼻汁や痰に含まれるRSウイルスは、患者の皮膚や衣服、玩具、またそれに触れた手指においても4〜7時間の間感染性を持っており、それが眼瞼や鼻咽頭の粘膜と接触することで感染が成立する、したがって、予防策としては手洗いの励行による接触予防、マスクの着用による飛沫防止が有効である。また、流行期に生後6ヶ月未満の乳児を伴った外出をする場合には、人ごみを避ける等の注意も必要である。RSウイルスはエンベロープを有する構造を持つため、消毒薬に対する抵抗性は比較的弱く、次亜塩素酸ナトリウム、消毒用アルコール、ポピドンヨード等が有効である。
一方、RSウイルスは一度感染しても持続的な免疫ができにくいウイルスであり、ワクチンの開発は難航している。