平成15年の食中毒発生状況(第25巻、5号)
2004年5月
平成15年の全国及び東京都における食中毒の発生状況が、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都健康局食品医薬品安全部でまとめられたので、下記の資料に基づき、その概要と特徴について紹介する。
平成15年の食中毒発生状況の大きな特徴は、前年に引き続き小型球形ウイルス(SRSV、平成15年8月からノロウイルスとして集計)による食中毒の増加である.患者数で第1位、事件数(患者数2名以上の食中毒)でも第1位である。
全国で発生した食中毒事件の総数は1,584件、患者数は29,341名であり、前年に比べ事件数はやや減少(前年比0.86倍)、患者数は微増(前年比1.07倍)であった。
事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒は全体の70.0%を占め、第1位はカンピロバクター・ジェジュニ/コリで490件(30.9%)、第2位はサルモネラで350件(22.1%)、第3位は腸炎ビブリオで108件(6.8%)であった。以下、黄色ブドウ球菌59件(3.7%)、病原大腸菌35件(2.2%)、ウエルシュ菌34件(2.1%)、腸管出血性大腸菌12件(0.8%)、セレウス菌12件(0.8%)、そしてナグビブリオ2件(0.1%)、赤痢菌1件(0.1%)の順であった。第1位のカンピロバクター事件数は前年比1.10倍に増加、サルモネラ事件数は前年比0.75倍に減少、腸炎ビブリオ事件数は平成10年をピークに年々減少し、前年比は0.47倍であった。
細菌性食中毒の患者数は、サルモネラ、ウエルシュ菌、カンピロバクターの順で多かった。1事件あたりの患者数が500名を超えた大規模食中毒は2事件で、共にSRSVによるものであった。原因食品は飲食店の弁当・食事(患者数790名)とミニきなこねじりパン(患者数661名)であった。
赤痢菌( S. flexneri 2b )による1事件では、寿司店が原因とされた。汚染経路として赤痢菌に感染した寿司店臨時調理従事者からの二次汚染あるいは原材料の汚染が考えられたが、特定には至らなかった。
腸管出血性大腸菌血清型O26による1事件は、センター方式の給食を利用していた6幼稚園で発生したもので、摂食者数3,476名、患者数141名、O26陽性者数449名(園児367名、家族60名、職員20名、その他2名)であった。
細菌性食中毒の死者は1名で、腸管出血性大腸菌O157食中毒によるものであり、この事件(患者数4名)は、在宅老人への配食弁当が原因であった。
SRSVによる食中毒は、事件数278件(17.6%)、患者数10,604名で全食中毒患者の36.1%を占めるに至っている。平成12年以降SRSV食中毒が急増している原因としては、これまでにいわれてきた検査法の進歩・普及や貝類のウイルス汚染の拡大に加え、ウイルス感染しているが発症していない食品取扱者の関与も一因となっている。事実、前述のミニきなこねじりパンを原因とした事件のように二枚貝以外の食品を原因とした事件が増加している。SRSVによる事件では、それが食品媒介感染症(食中毒)であるか食品を介さない感染症であるかの判断が非常に難しい一面もある。
化学物質による食中毒は8件(0.5%)、患者数218名で、すべてヒスタミンによるものであった。植物性自然毒による食中毒は66件(4.1%)、患者数229名で、死者2名は各々オオアマドコロと誤食したイヌサフラン(コルヒチン)及びキノコ(ドクツルタケ推定)によるものであった。動物性自然毒による事件数は46件(2.9%)、患者数79名で、死者3名はすべてフグの素人調理によるものであった。
一方、東京都における食中毒発生状況は、事件数103件(患者数2,322名)で、平成14年の118件(患者数2849名)と比べ、事件数で0.87倍(患者数で0.82倍)であった。これらの内、細菌性食中毒は59件、第1位はカンピロバクタ−で26件(患者数257名)、第2位はサルモネラで10件(患者数138名)、第3位は腸炎ビブリオの9件(患者数105名)と黄色ブドウ球菌9件(患者数61名)、以下ウエルシュ菌2件、病原大腸菌(毒素原性大腸菌)、腸管出血性大腸菌、セレウス菌各1件の順であった。
カンピロバクタ−による食中毒は、前年同様細菌性食中毒では第1位、事件数26件で前年比1.04倍(患者数1.39倍)、内19件で鶏肉料理が提供され、その内16件では鶏肉の生食(刺身、タタキ等)が含まれていた。また、学校での調理実習や解剖実習後の調理が原因で発生した事件が3件あった。サルモネラ食中毒は事件数10件で前年比1.10倍(患者数2.1倍)、その内7件が血清型Enteritidisによるもので、依然として主流血清型であった。この内、鶏卵の関与が疑われた事件は5件であった。腸炎ビブリオ食中毒は全国での発生と同様に減少し、東京都では事件数で前年比0.37倍(患者数0.49倍)であった。
SRSVによる食中毒は、東京都でも増加し続けており、平成15年は事件数34件(前年比1.1倍)、患者数1,375名(前年比1.48倍)であった。34件中13件に「カキ」の喫食が認められた.また、1月に2小学校で発生した1事件(患者数314名)は、給食に提供された「バタ−ロ−ルパン」が原因であった。両小学校の患者及び「バタ−ロ−ルパン」の製造会社従業員から検出されたSRSVは、遺伝子型も一致した。なお、その他のウイルスによる1事件は東京都内では初めて明らかにされた食品媒介のA群ロタウイルスによる事件である。この事件は結婚披露宴で提供された食事が原因であり、患者及び従業員からロタウイルスが検出された。
化学物質による食中毒1件は、ヒスタミンによるもので、社員食堂で提供されたメカジキの照り焼きが原因食品であった。メカジキの照り焼き及び原材料(生カジキ)からヒスタミンが検出され、さらに、原材料の生カジキからヒスタミン産生菌 Photobacterium histaminum が画分離された。植物性自然毒食中毒1件は、小学校で栽培されていた未熟なジャガイモを喫食して発生したソラニン中毒であった。動物性自然毒1件は肝臓のス−プ(韓国で購入、処理されたフグを持ち帰り調理したもの)による中毒で、残品の肝臓及びス−プからテトロドトキシンが検出された。
一方、原因物質不明は7件(6.8%)のみで、原因物質判明率は93.2%と非常に高かった。不明の内の1事件(患者259名、仕出し弁当が原因)では、患者ふん便から高率にastA遺伝子陽性の大腸菌(病原性について未解明)が検出された。また他の1事件(患者9名、骨付きラム肉煮物が原因)は、ウエルシュ菌によるものと推定された。患者数100名以上の大規模食中毒は4件(SRSV3件、不明1件)であった。
なお、東京都では平成15年7月「食の安全・安心確保」に向けた取組みとして「東京都食品安全情報評価委員会」を設置した。この評価委員会で「カンピロバクタ−食中毒について」検討され、平成16年7月に本菌食中毒の発生を低減させるための提言が出された。今後、その提言に従い、施策への反映が図られる予定である。
平 成 15 年 の 食 中 毒 発 生 状 況
原因物質 | 全 国 *1) | 東 京 都 | ||||
事件数(%) | 患者数(%) | 死者数 | 事件数(%) | 患者数(%) | 死者数 | |
サルモネラ | 350( 22.1) | 6,517( 22.2) | - | 10( 9.7) | 138( 5.9) | - |
黄色ブドウ球菌 | 59( 3.7) | 1,438( 4.9) | - | 9( 8.7) | 61( 2.6) | - |
腸炎ビブリオ | 108( 6.8) | 1,342( 4.6) | - | 9( 8.7) | 105( 4.5) | - |
腸管出血性大腸菌 | 12( 0.8) | 184( 0.6) | 1 | 1( 1.0) | 4( 0.2) | - |
その他の病原大腸菌 | 35( 2.2) | 1,375( 4.7) | - | 1( 1.0) | 11( 0.5) | - |
ウエルシュ菌 | 34( 2.1) | 2,824( 9.6) | - | 2( 2.0) | 17( 0.7) | - |
セレウス菌 | 12( 0.8) | 118( 0.4) | - | 1( 1.0) | 7( 0.3) | - |
カンピロバクタ− | 490( 30.9) | 2,627( 9.0) | - | 26*2) ( 25.2) | 257*2) ( 11.1) | - |
ナグビブリオ | 2( 0.1) | 2( 0.0) | - | - | - | - |
赤痢菌 | 1( 0.1) | 10( 0.0) | - | - | - | - |
その他の細菌 | 6( 0.4) | 99( 0.3) | - | - | - | - |
細菌性総数 | 1,109( 70.0) | 16,536( 56.4) | 1 | 59( 57.3) | 600( 25.8) | - |
小型球形ウイルス*3) | 278( 17.6) | 10,604( 36.1) | - | 34*2) ( 32.7) | 1,375*2) ( 59.2) | - |
その他のウイルス | 4( 0.3) | 99( 0.3) | - | 1( 1.0) | 25( 1.1) | - |
化学物質 | 8( 0.5) | 218( 0.7) | - | 1( 1.0) | 36( 1.6) | - |
植物性自然毒 | 66( 4.2) | 229( 0.8) | 2 | 1( 1.0) | 6( 0.3) | - |
動物性自然毒 | 46( 2.9) | 79( 0.3) | 3 | 1( 1.0) | 1( 0.1) | - |
その他 | 1( 0.1) | 1( 0.0) | - | - | - | - |
原因物質不明 | 72( 4.5) | 1,575( 5.4) | - | 7( 6.8) | 298( 12.8) | - |
合 計 | 1,584(100.0) | 29,341(100.0) | 6 | 103(100.0) | 2,322(100.0) | - |
1) 全国の発生状況は,平成16年7月1日現在の暫定値.
ボツリヌス菌,エルシニア,コレラ菌による食中毒の報告はなし. 2) 1事例(患者25名)はカンピロバクタ−及び小型球形ウイルスとの混合感染(重掲). 3) 平成15年8月の食品衛生法施行規則の改正により,記載方法が「ノロウイルス」に変更されたが, 本表では小型球形ウイルスとして集計. |