東京都健康安全研究センター
レジオネラ症予防のための循環式浴槽設備におけるレジオネラ属菌調査事例

レジオネラ症予防のための循環式浴槽設備におけるレジオネラ属菌調査事例(第25巻、11号)

 

2004年11月

 


 我が国では、レジオネラ症の集団感染事例が各地で発生・報告されている。なかでも、温泉入浴施設や高齢者福祉施設等の循環式浴槽水に生息したレジオネラが感染源となった患者発生が問題となっている。東京都は、レジオネラ症防止対策を目的として「公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等の基準に関する条例」並びに「旅館業法施行条例」及び「旅館業法施行細則」を一部改正(平成15年4月1日施行)し、保健所等による監視・指導を強化している。その結果、公共性の高い施設等では浴槽水中のレジオネラ属菌検出率が低下の傾向にあるものの、浴槽水の塩素消毒だけでレジオネラ属菌を皆無にすることは困難であると思われる。そこで、浴槽水中のレジオネラ「ゼロ」を目指すための設備管理ポイントを見いだす目的で、循環式浴槽をもつ高齢者福祉施設の協力を得て、配管系統(図1)におけるレジオネラ属菌の消長を調査した。

 

 

 調査対象は、東京都多摩地域に所在する高齢者福祉施設4施設(A〜D施設)とした。

 A施設は、事前調査では浴槽水の遊離残留塩素濃度(以下、塩素濃度と略記) 0mg/L、レジオネラ属菌数1.0×102CFU/100mLであった。本調査の結果は、浴槽水(塩素濃度:0.6mg/L)及び循環水復口は不検出であったが、水位計管及び集毛器の拭取り試料から2.4×102〜1.1×103CFU/100cm2、ろ過器槽水から1.5×102CFU/100mLの菌が検出された。改善措置として、配管系統を5〜10mg/Lの塩素により洗浄・消毒等を行った後の確認調査では不検出となった。

 B施設は、事前調査で浴槽水(塩素濃度:0.1mg/L)から1.9×102CFU/100mLのレジオネラ属菌が検出された。塩素濃度を2mg/Lに上昇させる措置をした結果、菌は5CFU/100mLまで減少した。しかし、循環水往口、集毛器及びろ過器から10〜104CFU/100cm2の菌が検出された。菌数が最も多かったのは、集毛器の内壁で1.4×104CFU/100cm2であった。改善措置として、配管系統を高濃度塩素で洗浄・消毒した結果、不検出となった。

 C施設は事前調査で、浴槽水(塩素濃度:痕跡)のレジオネラ属菌が4.3×102CFU/100mLであった。浴槽水をジクロロイソシアヌル酸ナトリウム処理した後に調査した結果、循環水復口以外の拭取り試料からは、1.2×10〜1.2×105CFU/100cm2の菌が検出された。改善措置として二酸化塩素剤による高濃度洗浄(二酸化塩素濃度:20 mg/L)と塩素注入回数及び添加量の増加措置を行った結果、確認調査では不検出となった。

 D施設は、事前調査で浴槽水(塩素濃度:0.2mg/L)から2.3×10CFU/100mLの菌が検出された。本調査の前に全換水の間隔を1回/月から1回/週へ短縮する等の改善措置を行った。その結果、浴槽水(塩素濃度:0.2mg/L)、循環水往口及び集毛器の拭取り試料からは不検出となったが、ろ過器、フィルター、活性石袋等の拭取り試料から最高3.8×104CFU/100cm2の菌が検出された。その後、35〜50mg/Lの塩素処理洗浄を実施した結果、浴槽水(塩素濃度:1.0mg/L)及び活性石槽水以外の配管系統で不検出となった。しかし、活性石槽水(塩素濃度:0.8mg/L)には、わずかではあるが1CFU/100mLの菌が残存していた。

 今回の施設調査で、レジオネラ属菌が多く検出されたのは、集毛器及びろ過器であった。このことから、浴槽水の定期的な検査もさることながら、配管系統の定期的な衛生管理の必要性が確認された。すなわち、浴槽の管理(洗浄・換水及び塩素剤投与)だけでは不十分であり、集毛器及びろ過器などの配管系統の洗浄・消毒を定期的に行うことが浴槽水を介したレジオネラ症の予防につながると考える。

 なお、参考までにC施設の調査結果を表1に掲載した。

 

表1.C施設のレジオネラ属菌調査結果

検体採取場所 調査日及び措置日
本調査
(10/27)
改善措置(1)
(10/30)
改善措置(2)
(11/7)
確認調査
(11/13)
浴槽水 * 4.3×102 配管,ろ材等の
二酸化塩素
洗浄
(20mg/L)
次亜塩素酸
ナトリウム
注入
 6回/日
 (15分/回)
   ↓
 8回/日
 (30分/回)
不検出
循環水往口拭取り 1.2×10 ND
集毛器配管往口拭取り
   内壁拭取り
   配管復口拭取り
   集毛器槽水
7.1 × 104
4.2 × 103
1.2 × 105
3.2 × 103
不検出
不検出
不検出
不検出
ろ過器槽水 3.1 × 103 不検出
オゾン槽水 2.8 × 10 不検出
循環水 復口拭取り 不検出 不検出

 

*:10/8に採取した浴槽水の調査結果

検出菌数の単位:水試料の場合CFU/100 mL, 拭取り試料の場合CFU/100 cm2

ND:検体の採取ができなかったため検査できず

 

 

多摩支所 微生物研究科 岩谷美枝

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します ご利用にあたって
© 2023 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.