都内におけるHIV感染者の増加について(第25巻、12号)
2004年12月
国連エイズ合同計画(UNAIDS)の発表によると、全世界におけるAIDS(後天性免疫不全症候群:acquired immunodeficiency syndrome)による死者は、既に推定2,000万人を超えてなおも感染は拡大している。特に、日本を含む東アジア、東ヨーロッパ、中央アジアにおける感染者の増加が指摘されている。
AIDS発症者およびHIV(ヒト免疫不全ウイルス:human immunodeficiency virus)感染者は感染症法において後天性免疫不全症候群として5類感染症に分類されており、診断した医師は7日以内に都道府県知事に報告しなければならない。厚生労働省エイズ動向委員会の報告では、2004年1年間の我が国の新規HIV感染者の報告数は748件(累積報告6,527件;男性4,862件、女性1,665件)、AIDS患者は366件(累積報告3,257件;男性2,809件、女性448件)といずれも過去最高を記録しており、同委員会では一層の対策強化を呼びかけている。
HIVは遺伝子学的にHIV-1型とHIV-2型の2種類に大別される。HIV-1型は日本も含め世界的に流行しており、HIV-2型は主に西アフリカ地域や西インド地域に流行している型である。しかし、昨年11月には大阪で国内2例目となるHIV-2型感染者が報告され、これまで国内ではほとんど見られなかったタイプによる感染の拡大も懸念されている。
東京都健康安全研究センターでは、東京都南新宿検査・相談室、都内23区の保健所および多摩地区、島しょ地区保健所が実施しているHIV検査受診者のスクリーニング検査及び確認検査を行っている(23区のうち6区は自区内、多摩地区保健所は多摩支所でスクリーニング検査を実施)。
2004年1年間にウイルス研究科で扱ったHIVスクリーニング検査数は15,282件、そのうちの陽性数は153件(陽性率1.0%)であった。その内訳を年齢区分別にみると、検査数の80.9%、陽性数の86.9%が20歳代と30歳代であった。陽性数を性別でみると、男性の146件(95.4%)に対し女性は7件(4.6%)で、全国のHIV感染者の男性と女性の比率(約8:2)に比べ都においては、男性の占める割合が高く、特に30歳代男性が検査数、陽性数、陽性率の全てで最も高い値を示した(表)。また、2004年1年間の検査数、陽性数の累積値を過去3年間の平均値と比較すると、検査数、陽性数(陽性率)は共に増加し(図)、全国の感染者報告数の増加傾向と一致する結果となった。東京都のHIV感染者数は、全国の感染者の約4割、AIDS患者数も約3割を占める状況にあり、さらなる蔓延防止対策の徹底が求められている。当センターでは、2004年9月よりスクリーニング検査法をHIV抗体のみを検出する方法から、HIV抗原も同時に検出できる方法に変更し、感染後の検査陰性期間(ウインドウ期)を3ヶ月から2ヶ月に短縮させた。このことは初期の感染者による感染の拡大の低減につながると思われる。
表.HIV検査数と陽性数(性、年齢区分別)
10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代以上 | ||
男性 | 検査数 | 189 | 4,028 | 4,179 | 1,309 | 560 | 273 |
陽性数(率) | 1 (0.5%) | 59 (1.5%) | 67 (1.6%) | 14 (1.1%) | 4 (0.7%) | 1 (0.4%) | |
女性 | 検査数 | 309 | 2894 | 1248 | 182 | 62 | 33 |
陽性数(率) | 0 | 5 (0.2%) | 2 (0.2%) | 0 | 0 | 0 | |
合計 | 検査数 | 498 | 6,922 | 5,427 | 1,491 | 622 | 306 |
陽性数(率) | 1 (0.2%) | 64 (0.9%) | 69 (1.3%) | 14 (0.9%) | 4 (0.6%) | 1 (0.3%) |
その他:性、年齢区分不明16件 東京都健康安全研究センター ウイルス研究科 |
図.HIV検査数と陽性数(累積)
東京都健康安全研究センターウイルス研究科