東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2004年)(第26巻、9号)
2005年9月
毎年、冬季になるとウイルス性胃腸炎の集団発生事例数が増加してくる。ここでは、2004年1月から12月に、都内で発生した急性胃腸炎の集団発生事例について行ったウイルス検査成績、及び検出ウイルスの遺伝子解析結果について報告する。
1年間に当研究科へウイルス検査を目的に搬入された急性胃腸炎集団事例は379事例であった。RT-PCR法、ELISA法により胃腸炎起因ウイルスの検査を行い、379事例中196事例(51.7%)からウイルスが検出された(表1)。ウイルス陽性となった196事例中194事例(99.0%)はノロウイルスであった。その他にロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスが各1事例から検出された。アデノウイルス検出事例は、ノロウイルスも同時に1事例から検出され混合感染事例であった。
表1. 都内におけるウイルス性胃腸炎発生状況とウイルス検出成績(2004年)
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 合計 | ||
検査対象 | 事例数 | 51 | 41 | 50 | 32 | 31 | 22 | 16 | 17 | 11 | 15 | 31 | 62 | 379 |
陽 性 事例数 |
ノロ | 36 | 25 | 33 | 17 | 17 | 5 | 1 | 2 | 1 | 3 | 11 | 43 | 194 |
ロタ | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | |
アデノ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | |
アストロ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | |
合計 | 36 | 25 | 34 | 17 | 17 | 5 | 1 | 2 | 1 | 3 | 11* | 44 | 196* |
*:同一の集団発生事例から2種類のウイルスが検出されたため、合計は一致しない。
胃腸炎集団発生の施設別ウイルス検出状況を表2に示した。胃腸炎集団発生場所は検査対象とした379事例のうち、飲食店169事例(44.6%)、家庭内90事例(23.7%)、会食料理・仕出し弁当関連施設28事例(7.4%)であった。その他は全て施設内発生であり、合計92事例(24.3%)であった。その内訳は宿泊施設33事例、高齢者・福祉施設25事例、小学校14事例、幼稚園・保育園11事例、社員食堂・寮8事例、病院9事例であった。ウイルス陽性率が最も高かったのは病院(100%)、次いで幼稚園・保育園(90.9%)、高齢者施設(88.2%)、小学校(85.7%)、宿泊施設(69.7%)であった。最も検出率の低い家庭での発生事例においても、その33.3%からノロウイルスが検出された。ロタウイルス1事例は小学校、アデノウイルスとノロウイルスの混合感染事例1事例は保育園、アストロウイルス1事例は高齢者施設からであった。
表2. 施設別のウイルス性胃腸炎発生状況(2004年)
飲食店 | 家庭 | 会食料理 仕出弁当 |
宿泊 施設 |
高齢者
施設 |
小学校 | 幼稚園
保育園 |
食堂 寮 |
病院 | 合計 | ||
検索対象 | 事例数 | 169 | 90 | 28 | 33 | 17 | 14 | 11 | 8 | 9 | 379 |
陽 性 事例数 |
ノロ | 74 | 30 | 19 | 23 | 14 | 11 | 10 | 4 | 9 | 194 |
ロタ | 1 | 1 | |||||||||
アデノ | 1 | 1 | |||||||||
アストロ | 1 | 1 | |||||||||
合計 | 74 | 30 | 19 | 23 | 15 | 12 | 10* | 4 | 9 | 196* | |
ウイルス陽性率(%) | 43.8 | 33.3 | 67.9 | 69.7 | 88.2 | 85.7 | 90.9 | 50 | 100 | 51.7 |
*:同一の集団発生事例から2種類のウイルスが検出されたため、合計は一致しない。
検出されたノロウイルスの遺伝子系統樹解析は、41事例の集団発生から代表例を選出して行った。RT-PCR法によって得られたPCR産物を用いて、ダイターミネーター法により遺伝子の塩基配列を決定した。遺伝子型別をみると、GⅡ−4(Bristol)型とGⅡ−2(Melksham)型がそれぞれ10例、次いでGⅡ−6(SaU3)型が7例、GⅡ−1(Hawaii)6例、GⅡ−3(Toronto)3例が検出された。このほかにTOC1-93-J、Yuri、GⅠ−1(Norwalk)、GⅠ−4(Chiba)、GⅠ−3(Desert Shield)型がそれぞれ1例ずつ認められた。GⅡ−4型は昨年に引き続いて主流行型であるが、本年はGⅡ−2型の増加が顕著であった。本年1月に、広島県の高齢者福祉施設における胃腸炎集団発生では7名の死者が発生したが、本事例ではGⅡ−4型が検出されている。遺伝子の変異が病原性の変化と関連するのか否かについて、現在注目が集まっている。
図1. 2004年流行期に検出されたノロウイルスの遺伝子系統樹解析成績