2006年1月(第27巻、1号)
2005/2006シーズンの東京都におけるインフルエンザの最初の発生は、例年より1〜2ヶ月早く、2005年9月に町田市で発生したAソ連型(A/H1N1型:以後AH1型)の地域流行であった。この地域流行は、小学校の低学年を中心とした30名程の小規模流行であったが、昨年わずかに発生がみられたAH1型による流行であり、例年の流行期前に発生したことから、AH1型が今季の流行型の一つとなることが予兆された。また、近年、東京都では、散発発生を除き、流行期前の集団発生は報告されていないことから、新しい流行形態として注目された。
今シーズンの本格的な流行は、定点あたりの患者報告数からみて、2005年11月末から始まり、同時期に葛飾区におけるA香港型(A/H3N2型:以後AH3型)の集団発生、12月初旬の世田谷区におけるAH1型集団発生が起きており、それ以降は、AH1型とAH3型による混合流行となった。
搬入された咽頭ぬぐい液および咽頭うがい液については、PCR法による遺伝子検査およびウイルス分離検査を行い、検出されたウイルス株について遺伝子解析を試みた。すなわち、検出されたAH1型株、AH3型株の遺伝子をRT-nested-PCR法により増幅し、PCRプロダクトを用いたダイレクトシーケンスによりHA領域の一部の塩基配列を決定後、分子系統樹解析を行った。
その結果、AH3型株(A/Tokyo/05-9373/2005等)は、今季ワクチン株であるA/Newyork/55/2004(H3N2)株を含んだ群に大別されるものの、そこから分枝した株であることが判明した(図2)。また、AH1型株(A/Tokyo/05-12918/2005等)は、過去6シーズンに渡ってワクチン株となっているA/New Caledonia/20/99(H1N1)株に近縁な株であり、昨シーズンの検出株と比べ、ほとんど変わりが無いことが判明した(図3)。
これらの分離株を国立感染症研究所配布のインフルエンザサーベイランスキットならびにデンカ生研製ワクチン株抗血清を用いたHI試験(0.7%のモルモット赤血球液を使用)に供した結果、AH1型分離株はA/New Caledonia/20/99株抗血清(ホモHI価320倍)に対して160〜320倍のHI価を示し、AH3型分離株は、A/New York/55/2004(H3N2)株抗血清(ホモHI価160倍)に対して80〜320倍のHI価を有していたことから、今回分離したすべての株は、今季ワクチン株と高い交叉反応性を持つ株であることが明らかになった。
過去5シーズンの患者報告数の推移(図1)から各シーズンの流行を比較すると、今シーズンは、2002/2003シーズンに近い曲線を描いて流行が発生している。第4週をピークに流行の減少を示す曲線は、その形から、なだらかに低下して行くことが予想されるため、今季の流行は中規模から小規模の流行が長引く傾向が考えられる(2月中旬現在)。しかし、東京都では現在のところ検出されていないが、昨シーズンに大流行を起こしたB型株が他見で検出されており、今後、都内で発生する可能性も考えられるので注意が必要である。
図1 都内定点病院あたりの患者報告数の推移
(東京都感染症情報センター)
図2 東京都で検出されたA香港型(AH3型)インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹
図3 東京都で検出されたAソ連型(AH1型)インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹
微生物部ウイルス研究科