平成17年の食中毒発生状況(第27巻、7号)
2006年7月
平成17年に全国及び東京都内で発生した食中毒事件の概要と特徴について、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全室の資料に基づき、紹介する。
1 全国における発生状況
食中毒事件総数は1,545件、患者数は27,019名であり、前年度比は事件数で0.89、患者数で0.94とやや減少した。患者500名を超える大規模食中毒は2件であった。
事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒が1,065件で全体の68.9%を占めた。原因菌の第1位は昨年と同様、カンピロバクター・ジェジュニ /コリで645件(41.7%)、以下、サルモネラ144件(9.3%)、腸炎ビブリオ113件(7.3%)、黄色ブドウ球菌63件(4.1%)、ウエルシュ菌27件(1.7%)、腸管出血性大腸菌以外の病原大腸菌25件(1.6%)、腸管出血性大腸菌24件(1.6%)、セレウス菌16件(1.0%)の順であった。原因菌の上位第3位までの順はこの3年間で変わらないが、カンピロバクターが前年比1.1と増加した一方、サルモネラと腸炎ビブリオはそれぞれ前年比0.62及び0.54と大きく減少した。
細菌性食中毒の患者数は全体の62%を占めた。細菌別にはサルモネラ事例が最も多く、3,700名で死者も1名報告された。
ノロウイルスによる食中毒は、274件(17.7%)であったが、患者数は全食中毒患者の32.3%に相当する8,728名であった。化学物質による食中毒は14件、植物性自然毒は58件、動物性自然毒48件であり、このうち毒キノコ(3名)、トリカブト(1名)及びフグ毒(2名)が原因で6名の死者が報告された。
2 東京都における発生状況
都内で発生した食中毒事件の総数は99件、患者数は2,518名であり、事件数、患者数ともに前年比1.3と増加したが、規模としては一昨年と同程度であった。
細菌性食中毒は58件(58.6%)で、その半数近くの25件(25.3%)はカンピロバクター・ジェジュニ /コリによるものであった。それらの多くが生、または加熱不十分の鶏肉、鶏内臓、牛レバーが原因と推定された。また、原材料から調理従事者を介した二次汚染と考えられる事例も多くみられた。次いで腸炎ビブリオが9件(9.1%)、サルモネラ及び黄色ブドウ球菌が各7件(7.1%)、腸管出血性大腸菌が5件(5.1%)、腸管出血性大腸菌以外の病原大腸菌、ウエルシュ菌、セレウス菌が各2件(2.0%)あった。
平成17年の特徴は「仕出し弁当」を原因とする比較的大規模な食中毒が相次いで発生したことである。最大のものは、7月のサルモネラ(血清型Enteritidis, 以下SEと略)を原因とする患者470名の事例であった。弁当メニューに仕入れ品の「目玉焼き」があり、それを製造した工場の排水溝と患者糞便から検出されたSEの遺伝子パターン(PFGEパターン)が一致したことから、目玉焼きがサルモネラに汚染されていたと推察された。しかし、仕出し屋従業員(原因食品製造前に発症)糞便からも同一パターンのSEが検出されており、そこからの汚染も否定できない事件であった。次に患者数の多かった事例は、6月の組織侵入性大腸菌O164による小学校における食中毒(患者数153名)であった。組織侵入性大腸菌による食中毒は非常に稀で、本事例は過去40年間に東京都内で発生した3例目の事例であった。原因食品は給食に提供された仕出し弁当と推定されたが、具体的な原因は特定できなかった。学校給食に仕出し弁当を利用することは、これまでほとんど想定されておらず、食品衛生上の問題を残した事件でもあった。8月には「鶏の照り焼き弁当」を原因食品とする黄色ブドウ球菌食中毒(患者数121名)が発生した。調理従事者の手指を介して菌が付着し、弁当調製後4〜10時間常温に置かれていたことが原因と推定された。また、7月には「おにぎり弁当」によるセレウス菌食中毒(患者67名)があり、本事例では残品のおにぎりから嘔吐毒素(セレウリド)が検出された。
ノロウイルスによる食中毒は昨年と比べて増加し、事件数33件(前年比1.3)、患者数1,210名(前年比1.8)であった。患者数100名以上の事例が4例あったが、その内の1事例は6月に発生しており、ノロウイルス食中毒の発生は冬季に限らないことが再認識された。原因としては、カキやシジミなどの二枚貝の生食及び調理従事者の手指を介した二次汚染によると推定された事例が多かった。
化学物質による食中毒3件はすべてヒスタミンによるもので、冷凍サバ、イナダ干物、マグロが原因食品であった。動物性自然毒はテトラミン(唾液腺を除去せずにツブ貝を喫食)、植物性自然毒はバイケイソウ(ウルイと間違えて喫食)が原因であった。
その他2件は アニサキスによるもので、うち1件はメジマグロの刺身が原因食であった。
原因物質 | 全国1) | 東京都 | |||||||||
事件数 | % | 患者数 | % | 死者数 | 事件数 | % | 患者数 | % | 死者数 | ||
細
菌 性 |
サルモネラ | 144 | 9.3 | 3,700 | 13.7 | 1 | 7 | 7.1 | 511 | 20.3 | - |
黄色ブドウ球菌 | 63 | 4.1 | 1,948 | 7.2 | - | 7 | 7.1 | 183 | 7.3 | - | |
腸炎ビブリオ | 113 | 7.3 | 2,301 | 8.5 | - | 9 | 9.1 | 76 | 3.0 | - | |
腸管出血性大腸菌 | 24 | 1.6 | 105 | 0.4 | - | 5
2) |
5.1 | 14
2) |
0.6 | - | |
その他の病原大腸菌 | 25 | 1.6 | 1,734 | 6.4 | - | 2 | 2.0 | 194 | 7.7 | - | |
ウエルシュ菌 | 27 | 1.7 | 2,643 | 9.8 | - | 2 | 2.0 | 74 | 2.9 | - | |
セレウス菌 | 16 | 1.0 | 324 | 1.2 | - | 2 | 2.0 | 74 | 2.9 | - | |
カンピロバクター | 645 | 41.7 | 3,439 | 12.7 | - | 25
2) |
25.3 | 160
2) |
6.4 | - | |
その他の細菌 | 8 | 0.5 | 484 | 1.8 | - | - | - | - | - | - | |
細菌性総数 | 1,065 | 68.9 | 16,678 | 61.7 | - | 58 | 58.6 | 1,280 | 50.8 | - | |
ノロウイルス | 274 | 17.7 | 8,728 | 32.3 | - | 33 | 33.3 | 1,210 | 48.1 | - | |
化学物質 | 14 | 0.9 | 111 | 0.4 | - | 3 | 3.0 | 19 | 0.8 | - | |
植物性自然毒 | 58 | 3.8 | 210 | 0.8 | 4 | 1 | 1.0 | 1 | 0 | - | |
動物性自然毒 | 48 | 3.1 | 75 | 0.3 | 2 | 1 | 1.0 | 3 | 0.1 | - | |
その他 | 9 | 0.6 | 9 | 0 | - | 2 | 2.0 | 2 | 0.1 | - | |
原因物質不明 | 77 | 5.0 | 1,209 | 4.5 | - | 1 | 1.0 | 3 | 0.1 | - | |
合計 | 1,545 | 100 | 27,019 | 100 | 7 | 99 | 100 | 2,518 | 100 | - |
1) 全国の発生状況は,平成18年6月4日現在の暫定値.
2) 1事例(患者6名)は腸管出血性大腸菌及びカンピロバクターとの混合感染(重掲).