東京都におけるインフルエンザウイルス検出状況(2006/2007年シーズン)(第28巻、4号)
2007年4月
東京都では、2006年12月に、インフルエンザ流行拡大の防止対策や新型インフルエンザの早期対応を目的とし、14ヶ所(区部8ヶ所、多摩地域6ヶ所)の医療機関をインフルエンザ病原体定点に追加指定した。本稿は、2006/2007年シーズンにインフルエンザ病原体定点で採取された検体について実施したインフルエンザウイルスの検査状況についてまとめた。インフルエンザ様疾患患者の咽頭拭い液または鼻腔拭い液を採取し、遺伝子検査(multiplex-PCR法)およびMDCK細胞を用いたウイルス分離試験によってインフルエンザウイルスの検出を行った。PCR法陽性の場合は、PCRプロダクトを用いたダイレクトシークエンス法によりヘマグルチニン(HA)領域の一部の塩基配列を決定し、NJ法による分子系統樹解析を行った。ウイルス分離試験陽性の場合は、ワクチン株抗血清を用いて赤血球凝集抑制(HI)試験により、分離株の抗原性状の解析を行った。
2007年5月18日までの間に定点医療機関より搬入された検体は222件で、幅広い年齢層の検体を得ることができた(表1)。PCR法により、164件(73.9%)からインフルエンザウイルス遺伝子が検出された。内訳は、AH1亜型が11件(6.7%)、AH3亜型が108件(65.9%)、B型が45件(27.4%)で、2006/2007年シーズンはAH3亜型を中心とした3種の混合流行であった。また、B型の検出頻度は20歳未満で高く、1-9歳で45.5%(10/22件)、10-19歳で57.9%(22/38件)を示した(図1)。
今季検出されたインフルエンザウイルスの分子系統樹解析を実施した結果(図2)、AH1亜型は、遺伝子学的にみると今シーズンのワクチン株(A/New Caledonia/20/99)に属しているが、昨シーズンの流行株から分枝したグループを形成していた。AH3亜型は、遺伝子学的にはワクチン株(A/Hiroshima/52/2005)を含んだグループ(グループ①)と、そこから更に分岐した二つのグループ(グループ②および③)に分けられた。B型は抗原性によりVictoria系統とYamagata系統の2系統にわけられているが、今シーズンの流行株はVictoria系統に属し、昨シーズン流行株と大きな変化はなく、ワクチン株(B/Malaysia/2506/2004)と近縁であった。
分離ウイルスの抗原性状を2006/2007年シーズンのワクチン株と比較解析した結果、AH1亜型ウイルスのHI価は、ホモ価640倍に対し20倍ないし40倍で、ワクチン株に比べかなり反応性が低いことが判明した。AH3亜型ウイルスのHI価は、ホモ価640倍に対し320倍ないし640倍であり、いずれのグループの分離株の抗原性もワクチン株とほぼ一致していた。 B型ウイルスのHI価は、ホモ価640倍に対し160倍から640倍で、抗原性の大きな変化はみられなかった。
WHOは、北半球の2007/2008年シーズンワクチン推奨株として、AH1亜型にはA/Solomon Islands/3/2006(H1N1)類似株、AH3亜型にはA/Wisconsin/67/2005(H3N2)類似株(A/Wisconsin/67/
2005(H3N2)およびA/Hiroshima/52/2005)、B型にはB/Malaysia/2506/2004類似株とする勧告を行った。AH1亜型のみA/New Caledonia/20/99からA/Solomon Islands/3/2006(H1N1)類似株に変更となったが、分子系統樹上、A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)類似株と若干離れたウイルスがすでに都内で検出されていることから、今後、AH1亜型ウイルスによる流行に注意していく必要があると考えられる。