東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2006年)(第28巻、9号)
2007年9月
東京都感染症発生動向調査による感染性胃腸炎の報告数は、2006年第49週(12月4日〜10日)に定点あたり27.44人となり、同事業が開始された1981年以来最大となった。ここでは、2006年1年間に当センターが実施した胃腸炎集団発生事例のウイルス検査成績および検出ウイルスの遺伝子解析結果について紹介する。
2006年1月から12月に、都内で発生した食中毒を含む胃腸炎集団事例(686事例)についてリアルタイム-PCR法、ELISA法、RPHA法により胃腸炎起因ウイルスの検査を行った結果、表に示すように444事例(64.7%)からウイルスが検出された。陽性事例中438事例(98.6%)からノロウイルスが検出され、そのうち397事例はノロウイルスGⅡ、18事例はノロウイルスGⅠ、23事例はノロウイルスGⅠとGⅡが同時に検出された。この他にロタウイルスが4事例、サポウイルスが2事例、アストロウイルスが1事例から検出された。本年はノロウイルスによる感染性胃腸炎の流行が例年より約1ヶ月早く始まり、2006年11月と12月のウイルス検索事例数は100事例を超えた。
集団事例の施設別発生状況をみると、飲食店が最も多く214事例(31.2%)、次いで高齢者福祉施設109事例(15.9%)、宿泊施設88事例(12.8%)、家庭内83事例(12.1%)、保育園・小学校75事例(10.9%)、病院内24事例(3.5%)、披露宴会場21事例(3.1%)、中学・高校・大学17事例(2.5%)、その他55事例(8.0%)であった。高齢者施設、病院および披露宴会場の集団事例から検出されたウイルスは全てノロウイルスGⅡであり、これら3施設からのノロウイルスGⅡ検出事例数は全体の154/397(38.8%)を占めた。これらの施設で発生した集団事例の感染様式は、ヒト‐ヒト感染例が多くを占めた。特に披露宴会場における事例では、施設内でノロウイルス感染者が嘔吐したことによってウイルス汚染が発生し、集団発生につながった事例が認められた。
ウイルス陽性率が最も高かったのは保育園・小学校67/75事例(89.3%)であり、以下は病院21/24事例(87.5%)、高齢者92/109事例(84.4%)、宿泊施設69/88事例(78.4%)、披露宴会場16/21事例(76.2%)の順であった。飲食店95/214事例(44.4%)、家庭内29/83事例(34.9%)でのウイルス陽性率は他の施設に比べて低かった。
ノロウイルスの遺伝子系統樹解析は、プライマーペアCOGF/SKRで増幅されるカプシド領域を対象に行った。RT-PCR法によって206事例の代表株から得られたPCR産物を用いて、ダイターミネーター法により塩基配列を決定した。図に示したように遺伝子型は、GⅠ/3,4,5,8,9型(5種類)とGⅡ/1〜7,9,11,13,16型(11種類)の合計16種類に分けられた。最も多かったのがGⅡ/4型で、遺伝子解析を実施した206事例中156事例(75.7%)を占めた。次いでGⅡ/3型15事例、GⅡ/2型・GⅡ/5型・GⅡ/6型が各6事例、GⅠ/3型とGⅡ/9型が各3事例、GⅠ/4型とGⅠ/8型が各2事例であった。このほかにGⅠ/5,9型、GⅡ/1,7,11,13,16型がそれぞれ1例づつ認められた。
2006年は、ヨーロッパ・アメリカ・オーストラリア・アジアの各地からノロウイルスGⅡ/4型による胃腸炎集団発生の報告がなされている。世界各地からの速報による遺伝子情報と比較すると、都内で検出されたノロウイルスGⅡ/4型はさらに3種類、すなわち2004年頃から流行していた型(GⅡ/4
2004)と、これまでに報告例が無い新しい変異型(GⅡ/4 2006EUaとGⅡ/4 2006EUb)に分類された。GⅡ/4型が検出された156事例のうち、GⅡ/4
2004は25事例、GⅡ/4 2006EUaは2事例であり、GⅡ/4 2006EUbは129事例(82.7%)を占めた。GⅡ/4 2004は2006年7月までに18事例から検出された後、9月2事例、10月1事例、11月3事例、12月1事例と少数ながら検出が続いた。一方、GⅡ/4
2006EUaは11月に2事例、GⅡ/4 2006EUbは9月に1事例から検出されたのが最初であった。
これらの結果から、ノロウイルス性胃腸炎の2006/2007流行期はGⅡ/4 2006EUbが主流であったことが明らかとなった。高齢者施設、病院および披露宴会場における集団事例から検出されたウイルスの大多数はGⅡ/4
2006EUbであったが、保育園・小学校等の低年齢層の施設からはノロウイルスGⅡ/4型のほか7種類の遺伝子型のノロウイルス、サポウイルス、A群・C群ロタウイルスおよびアストロウイルスも検出されているため、幅広く胃腸炎ウイルス検索を実施することの重要性が示された。
都内のウイルス性胃腸炎集団事例におけるウイルス検出状況(2006年)
1月 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 合計 | ||
検索事例数 | 60 | 53 | 42 | 40 | 31 | 29 | 27 | 23 | 23 | 48 | 116 | 194 | 686 | |
ウイルス陽性事例数 | 46 | 39 | 26 | 20 | 11 | 6 | 3 | 2 | 7 | 25 | 90 | 169 | 444 | |
内訳 | ノロGⅠ | 1 | 4 | 3 | 6 | 1 | 3 | 18 | ||||||
ノロGⅡ | 40 | 31* | 18 | 14 | 5 | 4 | 3 | 2 | 6 | 23 | 88 | 163 | 397* | |
ノロGⅠ+Ⅱ | 6 | 5 | 4 | 2 | 1 | 1 | 1 | 3 | 23 | |||||
サポ | 1 | 1 | 2 | |||||||||||
ロタ | 3* | 1 | 4* | |||||||||||
アストロ | 1 | 1 |
*:同一事例から2種類のウイルスが検出されたため、内訳の合計は陽性事例数と一致しない。 |
検出されたノロウイルスの遺伝子型