レジオネラ症 −感染源の究明と菌株確保−(第28巻、12号)
2007年12月
レジオネラ症は、感染症法において四類感染症に位置づけられており、1999年から全数把握の対象となっている疾患である。わが国の発生状況は、1999年から2004年までは全国で150例前後、東京都で20例以下であったが2005年から増加し、2006年は全国で508例(死亡31例)、東京都で62例(死亡2例)、2007年は全国で643例、東京都で53例(死亡1例)であった(図1)。
図1.全国及び東京都におけるレジオネラ症患者報告数 |
レジオネラ症は、臨床材料からの菌の分離培養が難しく確定診断が困難であったが、2003年11月施行の感染症法改正に伴い比較的手軽に実施できる尿中抗原検査による診断で届出が可能となった。そのため、患者報告数は増加したにもかかわらず1999年から2007年に都内で報告された患者のうち当センターでレジオネラ属菌検査を実施したのはわずか29症例であった。レジオネラ属菌が分離されたのは19症例であり、このうち18例は Legionella pneumophila で、1例が L.longbeachae であった。 L.pneumophila 18例の血清群は、1群が14例(77.8%)と最も多く、ついで6群が3例、7群1例であった(表1)。
表1.東京都内の患者から検出されたレジオネラ属菌種および血清群(1999年〜2007年) | |||||||
菌種名 | 血清群 | 患者数 | 検査材料 | ||||
喀痰 | 気管支洗浄液 | 胸水 | 咽頭 | 不明 | |||
L.pneumophila | 1群 | 14 | 10 | 1 | 1 | 2 | |
L.pneumophila | 6群 | 3 | 1 | 1 | 1 | ||
L.pneumophila | 7群 | 1 | 1 | ||||
L.longbeachae | 1 | 1 | |||||
合計 | 19 | 13 | 2 | 1 | 1 | 2 |
レジオネラ属菌が分離された19症例のうち、感染源疑いの環境水等からもレジオネラ属菌が分離されたのは6事例7株であり(表2)、そのうち3症例においては、患者由来株と環境水由来株の血清群およびパルスフィールド電気泳動法による遺伝子型が一致した。そのため、当該環境水が感染源であったと推定され、この結果によって、所轄保健所が施設に対し適切な改善指導を迅速に行うことができた。
表2.東京都内の患者感染源疑いの環境水から検出された レジオネラ属菌種および血清群(1999年〜2007年) |
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菌種名 | 血清群 | 件数 | 検査材料 | ||
浴槽水 | 冷却塔水 | 給湯水 | |||
L.pneumophila | 1群 | 5 | 2 | 1 | 2 |
L.pneumophila | 3群 | 1 | 1 | ||
L.pneumophila | 6群 | 1 | 1 | ||
合計 | 7 | 4 | 1 | 2 |
遺伝子型が一致した L. pneumophila (いずれも血清群1)による3症例についてその概要を示す(図2)。
図2.患者由来株と環境由来株が一致した例(全て血清群 1) |
症例1は、2001年12月に都内の銭湯で77歳の男性が感染した事例である。男性は、銭湯の浴槽中で意識を失い救急車で搬送され入院、経過観察中に突然呼吸困難となりレジオネラ症による呼吸不全で死亡した。患者の喀痰と銭湯の浴槽水から菌が分離され、検査の結果、血清群および遺伝子型が一致したことから、この男性は、浴槽内で倒れたときにレジオネラによって汚染された浴槽水を誤飲したことによる感染であったことが推定された。
症例2は、2006年11月に81歳男性が介護老人保健施設を利用後、肺炎を発症し医療機関に入院、尿中抗原検査によりレジオネラ肺炎と診断され2週間後に死亡した。この事例では、医療機関とレジオネラ症発生届けを受けた保健所および利用施設を所管する区の連携によって、患者の気管支洗浄液と施設の浴槽水が速やかに確保された。検査の結果、両検体から菌が分離され、血清群および遺伝子型が一致したことから、この男性は、レジオネラによって汚染された介護老人保健施設の浴槽水を介したレジオネラ症によって死亡したと推定された。
症例3は、2007年9月に家庭の浴槽水から感染した事例である。2007年9月に医療機関から70歳女性のレジオネラ症発生届けが出された。所轄保健所は患者の喀痰および家庭の浴槽水から分離された菌株を確保、検査の結果、両菌株の血清群および遺伝子型が一致したため、家庭の循環式浴槽水が感染源と推定された。
レジオネラ症が発生した場合、散発例にみえても集団感染を起こしていることが考えられるため、感染源調査は直ちに行う必要がある。現在、医療機関においてレジオネラ症の診断の多くは尿中抗原検査によって行われており、菌の分離培養検査が実施されない場合も少なくない。感染源を特定するためには患者由来株と環境由来株の同一性を判定する必要がある。尿中抗原検査では、レジオネラ症の約50%ともいわれる L.pneumophila 血清群1によるレジオネラ症の診断はできるが、その他の血清群や L.pneumophila 以外のレジオネラ属菌によるものの診断はできない。また、菌の分離ができないため感染源の究明ができないばかりでなく、さらに集団感染を見逃す可能性もある。
レジオネラ症関連の疫学調査には、臨床材料からの菌の分離と感染源と推測される環境材料からの菌の分離が不可欠であり、可能な限り菌の分離を実施することが望まれる。