東京都における2007/2008年シーズンのインフルエンザウイルス検出状況(第29巻、4号)
2008年4月
2007/2008年シーズン(2007年9月から2008年4月まで)に内科病原体定点医療機関で採取された咽頭または鼻咽頭ぬぐい液278件と、都内26保健所管内の幼稚園および小中学校において集団発生したインフルエンザ様疾患の調査により採取されたうがい液101件の計379件についてインフルエンザウイルスの遺伝子検査を行った。その結果、AH1亜型226件、AH3亜型27件、B型6件の計259件(68.3%)の陽性が認められた。また、ウイルス分離試験ではAH1亜型70株、AH3亜型4株、B型3株の計77株(20.3%)を分離した。
2007/2008年シーズンのインフルエンザの流行は、2007年第39週(9月21日)にAH1亜型のインフルエンザウイルスが検出されたのが始まりで、その後、AH1亜型に加えB型とAH3亜型が検出され、3種類のウイルスによる混合流行となった。2008年4月からはAH3亜型のみの検出が4月30日現在でも続いており、インフルエンザ流行の長期化が懸念されるところである。
分離したインフルエンザウイルスについては遺伝子配列の比較ならびにワクチン株抗血清を用いたHI試験による抗原解析を行った。その結果、AH1亜型株の今シーズン流行株は、ワクチン株(A/Solomon Islands/03/2006(H1N1))を含む枝の延長上に2つのグループを形成した(図1)。また、AH3型株の今シーズン流行株は、系統樹上でワクチン株を含む大きな群に属していたがワクチン株から分枝したところに位置していた(図2)。一方、B型株の今シーズン流行株は、ワクチン株(B/Malaysia/2506/2004)が属するVictoria系統の株とは異なる山形系統の株で、2005年の流行株に近縁な株であったことが判った(図3)。
これらの分離株を国立感染症研究所配布のインフルエンザサーベイランスキットならびにデンカ生研製ワクチン株抗血清を用いたHI試験(0.7%のモルモット赤血球液を使用)に供した結果、系統樹上で第1グループに属したAH1型分離株は、ワクチン株であるA/Solomon Islands/03/2006(H1N1)株抗血清(ホモHI価640倍)に対して40〜160倍のHI価を保有していたが、第2グループに属する分離株は10〜40倍のHI価しか保有しておらず、ワクチン株との交叉反応性に差があることが判った。
AH3亜型分離株は、ワクチン株であるA/Hiroshima/52/2005(H3N2)株抗血清(ホモHI価640倍)に対して160〜320倍のHI価を有しており、ワクチン株との交叉反応性を持つ株であることが判った。
一方、B型分離株は、ワクチン株であるB/Malaysia/2506/2004(Victoria系統)株抗血清(ホモHI価320倍)に対しては、10倍以下のHI価であった。しかし、2005/2006年シーズンのワクチン株であったB/Shanghai/361/2002(山形系統)株抗血清(ホモHI価640倍)に対しては160倍のHI価を有しており、2005年の流行株のHI価とも同等であったことから2005年の流行株と近縁な株であることが判った。
2007/2008年シーズンに北半球で検出されたAH1亜型株のなかにノイラミニダーゼ(NA)阻害薬(タミフル)に耐性を持つ流行株が欧州を中心に検出された。いわゆるタミフル耐性ウイルスの国内への侵入および国内での流行が懸念されたため、AH1亜型分離株を対象としたNA耐性遺伝子の検出が全国調査として行われた。その結果、7県1市で22株の耐性株が検出されたが、発生頻度(1.62%)は低く、東京都で分離された株からは耐性変異は見つかっていない。今回、国内で分離された耐性株のほとんどは、AH1亜型株の系統樹上で第1グループに含まれており、WHO(世界保健機構)による2008/2009年シーズンのワクチン推奨株(A/Brisbane/59/2007:H1N1)は、これらの耐性株と近縁な株であるため次シーズンのワクチン効果はこれらの耐性株に対して期待できるものと考えられている。
図1 東京都におけるAH1亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹
図2 東京都におけるAH3亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹
図3 東京都におけるB型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹