東京都健康安全研究センター
腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成19年)

腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成19年)(第29巻、5号)

 

2008年5月


 全国における腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の届出数は,平成17年3,594例,平成18年3,922例,平成19年4,606例で,昨年は平成11年に感染症法が施行されて以来,最も多い届出数であった(感染症発生動向調査)。

 一方,東京都における届出数も平成17年238例,平成18年268例とここ数年は250例前後であったが,平成19年は476例で,これまでの最多であった。これは5月に「学生食堂で提供された食事」を原因としたEHEC O157による大規模食中毒事例(患者数445名)が発生した影響である(詳細は当センターホームページ参照)。

 当センター食品微生物研究科では,東京都保菌者検索事業の一環として,EHEC感染症・食中毒の感染源究明や,散在的集団発生(Diffuse outbreak)をいち早く発見し,感染拡大を防止することを目的として,都内の病院および検査センター等で分離され,保健所を通じて搬入された菌株について,薬剤感受性試験やパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)等の疫学マーカーを用いた解析を行ない,その成績を食品監視課および保健所へ還元している。

 平成19年に搬入されたEHEC菌株および当センターで分離した株は合計487株であった。血清型別にみるとO157が448株(92 %),O26が29株(6.0 %),O103が3株(0.6 % ),O91およびO150が各2株(0.4 %),O121,O145,型別不能が各1株であった。近年は血清型O157が分離される割合が減少し,それ以外の血清型がやや増加する傾向が認められたが,昨年はO157が全体の90 %を越えていた(表1)。O157については,大規模食中毒の影響を大きく反映しており,分離菌株 448株のうち,186株(41.5%)が「学生食堂食中毒」関連株であった。

 月別に菌株分離・搬入状況をみると,1月〜5月前半までは数株程度であったが,5月後半に大規模食中毒の発生で100株を越え,6月から7月をピークとして徐々に減少していった。11月後半には保育園で発生した血清型O26(VT1)による集団感染事例が発生したため,分離数がやや多くなっている(図1)。

 腸管出血性大腸菌検出者の喫食調査および疫学マーカー解析によって食品媒介であることが推定され,行政的に食中毒として取り扱われた事例は7事例であった。そのうち4事例は焼肉店での食事を原因とした事例であった。この他,学生食堂,飲食店,福祉施設の給食を原因とした事例が各1事例であった。これらのうち,焼肉店を原因とした事例について,その概要を紹介する。

 平成19年7月,患者1名からO157(VT1+VT2)を検出したとの届出が埼玉県内の保健所にあった。喫食調査の結果,E区内のA焼肉店を利用していたことが判明したため詳細な調査が行われた。この患者は友人4人とA焼肉店を利用しており,同グループの非発症者1名からも同菌が検出された。

 同時期,これとは別にE区内でO157の患者発生届出があった。このグループは親戚5名でA焼肉店を利用していたことが判明した。この2グループの喫食日は同じであったが,患者の発症日が6日間も離れていたため,A焼肉店が原因施設であるか否かの判断が困難であった。そこで埼玉県から分離されたO157菌株の分与を受け,分離菌株についてPFGE等の疫学マーカー解析を行ったところ,2グループ3名由来のO157菌株の性状が一致したため,A焼肉店を原因施設とする食中毒と断定された。この事例では共通食に肉の生食メニューは無かった。しかし店が「肉を十分に加熱することなく喫食すること」を推奨していたことから,肉の加熱不十分によって食中毒を起こしたものと推定された。

 今回の事例のように,患者が他自治体にまたがっている場合や菌株が都外にある場合,他自治体と密な情報交換や連携,場合によっては菌株を迅速に交換し疫学解析を行うことが,感染拡大防止および感染源を特定する上で非常に重要である。

 平成19年6月,感染症法の一部改正が行われ,O157を含めた特定病原体の保管や運搬方法等が法律で厳密に定められた。そのため菌株がすぐに処分され,菌株の収集が困難になるのではないかという事が懸念されている。その対策として東京都では,各保健所に菌株輸送用容器を配布し,病院や検査センターで分離された菌株を直接当センターに郵送する運搬ルートを定める等,迅速に菌株を搬入するための整備を行いつつある。以前に比べ手続き等が複雑化しているため菌株の搬入や交換に時間が掛かってしまい,迅速な対応が困難になることが懸念されるが,問題点を改善しつつ対応している。関係者のより一層のご協力をお願いしたい。

 

表1. ヒト由来腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型(平成19年,東京都)

血清型 菌株数(%) 毒素型
VT1 VT2 VT1+VT2
O157 448(92.0) 8 277 163
O26 29(6.0) 28 1  
O103 3(0.6) 3    
O91 2(0.4) 2    
O150 2(0.4) 2    
O121 1(0.2)   1  
O145 1(0.2) 1    
型別不能 1(0.2)   1  
合計 487(100) 44 279 164

図1. 腸管出血性大腸菌 菌株の分離・搬入状況,平成19年

微生物部 食品微生物研究科 食中毒研究室・腸内細菌研究室

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