東京都健康安全研究センター
東京都において分離された赤痢菌およびサルモネラの菌種・血清型および薬剤感受性について

東京都において分離された赤痢菌およびサルモネラの菌種・血清型および薬剤感受性について(第29巻、6号)

 

2008年6月


 2007年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関等で分離された赤痢菌とサルモネラについて、当所で実施した菌種・血清型別試験および薬剤感受性試験の成績について、その概略を紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および飲食物取り扱い従事者等を対象とした保菌者検索事業によって分離された赤痢菌20株(海外旅行者由来10株を含む)とサルモネラ161株(海外旅行者由来18株を含む)である。

 血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute, 旧NCCLS)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。また、NA耐性の菌株についてはE test(アスカ純薬)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、ノルフロキサシン(NFLX)の4種類のニューキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC;μg/ml)を測定した。

 赤痢菌およびサルモネラの各菌種・血清群および耐性菌の出現頻度を表1に示した。

 赤痢菌20株の菌種別内訳は、フレキシネル(B群)菌1株(海外)、ボイド(C群)菌3株(海外2、国内1)、そしてソンネ(D群)菌16株(海外7、国内9)で、ディセンテリー菌は検出されなかった。

 供試した20株すべてがいずれかの薬剤に耐性を示し、その薬剤別耐性頻度は、TC(100.0%)、SM(95.0%)、ST(85.0%)、NA(30.0%)、ABPC(20.0%)、CP(20.0%)の順であった。耐性株20株の薬剤耐性パターンは7種に分かれ、ソンネ菌16株では「TC・SM・ST・NA」 (6株)、「TC・SM・ST」(6株)、「CP・TC・SM・ABPC・ST」(2株)が主要なものであった。フレキシネル菌1株は「CP・TC・SM・ABPC」であった。また、ボイド菌3株は、「TC・SM・ST」、「TC・SM」、「CP・TC・ST」であった。NA耐性を示したソンネ菌6株(国内)について、ニューキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、6株すべてが感受性であった。

 チフス菌11株(海外10、国内1)について調べた結果、8株が供試した10薬剤中NA単剤に耐性を示した(海外7、国内1)。これら8株についてニューキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、1株がCPFX、OFLX、NFLXに耐性を示した。しかし、残る7株はすべて感受性であった。

 パラチフスA菌6株は全てが海外由来であり、そのうち4株がNAに対してのみ単剤耐性を示したが、全てニューキノロン系薬剤に対し感受性を示した。

 一方、チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ144株のO群別内訳は、O7群38株(26.4%)、O4群36株(25.0%)、O8群33株(22.9%)、O9群23株(15.9%)、O1,3,19群6株(4.2%) 、O3,10群、O16群、O39群が各2株(1.4%)、O13群およびO群不明が各1株(0.7%)であり、O7群、O4群、O8群およびO9群で全体の90.2%を占めた。また、主な血清型は、 S. Enteritidis(O9群,22株)、 S. Thompson(O7群,13株)、 S. Typhimurium(O4群,8株)、 S. Derby(O4群,8株)、 S. Litchfield(O8群,8株)であった。

 サルモネラ144株中53株(36.8%)が耐性株で、例年と比べ、耐性頻度が上昇していた(前年は24.7%)。各薬剤に対する耐性頻度は、TC(29.9%)、SM(22.9%)、ABPC(12.5%)、NA(5.6%)、KM(6.9%)、ST(3.5%)、CP(1.4%)であった。耐性株53株の薬剤耐性パターンは19種で、「TC・SM」(17株) 、ABPC単剤(6株)が主要なものであった。なお、FOM、NFLXおよびCTX耐性株は認められなかった。O群別の耐性頻度では、O4群(69.4%)、O8群(39.4%)およびO9群(30.4%)が高かった。特にO4群の耐性頻度が著しく上昇していた(前年は20.7%)。これは昨年の調査に比べ、耐性率の高い血清型である S. Derby、 S. Schwarzengrund、そして S. Typhimuriumが高頻度に分離されたためで、これら3血清型菌でO4群耐性株全体の72%を占めた。血清型からみると、 S. Derby(O4群)では「TC・SM」(62.5%)が、 S. Enteritidis(O9群)ではABPC単剤耐性(27.3%)がそれぞれ最も多かった。

 最近、世界的に注目されている事象は、チフス菌およびパラチフスA菌におけるニューキノロン低感受性および耐性菌の出現である。わが国では、1998年から2000年にかけてニューキノロン低感受性菌が急激に出現しており、そのほとんどがインドへの渡航歴のある人から分離されている。また2004年にはニューキノロン剤耐性菌が出現しはじめており、今回の都の調査においてもインド渡航歴のある人からニューキノロン耐性のチフス菌が1株分離された。

 今後もこれらの耐性菌は、ますます増加する事が予想されるため、引き続き、薬剤感受性試験の動向を注意深く監視する必要がある。

 

表1. 赤痢菌およびサルモネラの薬剤耐性菌の出現頻度(2007年:東京)

菌種・血清群 供試株数(%) 耐性株数(%)*
赤痢菌 20 (100) 20 (100)
 フレキシネル 1 (5.0) 1 (100)
 ボイド 3 (15.0) 3 (100)
 ソンネ 16 (80.0) 16 (100)
チフス菌 11   8 (72.7)
パラチフスA菌 6   4 (66.7)
その他のサルモネラ 144 (100) 53 (36.8)
 O4群 36 (25.0) 25 (69.4)
 O7群 38 (26.4) 4 (10.5)
 O8群 33 (22.9) 13 (39.4)
 O9群 23 (15.9) 7 (30.4)
 O3,10群 2 (1.4) 1 (50.0)
 O13群 1 (0.7) 0 (0)
 O16群 2 (1.4) 0 (0)
 O1,3,19群 6 (4.2) 2 (33.3)
 O39群 2 (1.4) 0 (0)
 O群不明 1 (0.7) 1 (100)

 

*供試薬剤(10種類)のいずれかに耐性を示した菌株

 

 

微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室

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