東京都健康安全研究センター
平成19年の食中毒発生状況

平成19年の食中毒発生状況(第29巻、7号)

2008年7月


 

 平成19年に全国および東京都内で発生した食中毒事件の概要と特徴について、厚生労働省医薬食品局食品安全部並びに東京都福祉保健局健康安全部の資料に基づいて、紹介する。

1.全国における発生状況

 食中毒事件総数は1,289件、患者数は33,477名であり、前年に比べると、事件数は前年比0.86とやや減少し、過去10年間で最少であった。患者数も前年比0.86とやや減少した。患者500名を超える大規模食中毒は5件であった。
 事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒は732件(前年比0.95、全体の56.8%)である。平成18年774件(51.9%)、17年1,065件(68.9%)、16年1,152件(69.1%)と比較すると、事件数およびその比率は減少傾向にある。原因菌の第1位は、5年連続カンピロバクターで416件(32.3%)、以下、サルモネラ126件(9.8%)、黄色ブドウ球菌70件(5.4%)、腸炎ビブリオ42件(3.3%)、ウエルシュ菌27件(2.1%)、腸管出血性大腸菌25件(1.9%)、腸管出血性大腸菌以外の病原大腸菌11件(0.9%)、セレウス菌8件(0.6%)、ナグビブリオとボツリヌス菌がそれぞれ1件(0.1%)の順であった。腸管出血性大腸菌は事件数、患者数とも平成8年(87件、10,322名)に次いで多かった。従来食中毒の代表的な原因菌であった腸炎ビブリオは前年比0.59と減少し、上位3位から外れた。
 細菌性食中毒の患者数は12,964名(全体の38.7%)であり、前年の9,666名(24.8%)に比較して1.34倍に増加したが、平成17年16,678名、16年13,078名、15年16,551名に比較すると減少傾向にある。死者はいなかった。
 特記事例としては、4月にボツリヌス食中毒が発生した。患者は1名で、血清からE型ボツリヌス毒素が検出された。しかし、ふん便や原因食品と推定された「アユのいずし」からは菌及び毒素は検出されなかった。
 また9月に、宮城県内で製造された「いかの塩辛」を原因とした大規模な腸炎ビブリオ食中毒が発生した。患者は東日本を中心として12自治体で620名報告されたことから、厚生労働省は低塩分塩辛の取り扱いについて通知(食安監発第1210001号,平成19年12月10日)を発した。
 一方、ノロウイルスによる食中毒は事件数344件(26.7%)、患者数18,520名(55.3%)で、前年比は事件数で0.69、患者数で0.67であり、前年のような大発生には至らなかったが、依然として多く発生している。患者数500名以上の大規模食中毒は1事例で、学校給食を原因とした事例であった。患者数は864名で、原因食品は「かみかみ合え(加熱工程のない「きざみするめ」入り)」と推定された。
 化学物質による食中毒は10件、植物性自然毒は74件、動物性自然毒は39件であった。死者は自然毒によるもの7名で、例年に比べて多く、その原因は、キノコ(2名)、グロリオサの球根(1名)、イヌサフラン(1名)、フグ毒(3名)であった。

2.東京都における発生状況

 都内の食中毒発生状況は、事件数83件(患者数2,050名)であり、平成18年の114件(患者数2,614名)と比べ、事件数では0.73倍(患者数では0.78倍)で、規模としては過去5年間で平成16年に次いで少ない状況であった。
 食中毒事件83件中、細菌性は50件(60.2%)であった。原因菌ではカンピロバクターが21件(25.3%)で最も多かった。発生要因の多くは、生あるいは加熱不十分の鶏肉、生の牛レバーおよびその二次汚染と推定された。次いで、
サルモネラ9件(10.8%)、腸管出血性大腸菌7件(8.4%)、黄色ブドウ球菌6件(7.2%)、腸炎ビブリオ3件(3.6%)、腸管出血性大腸菌以外の病原大腸菌2件、ウエルシュ菌およびセレウス菌が各1件の順であった。腸管出血性大腸菌は事件数、患者数(491名)とも過去最多であった。
 細菌性食中毒で患者100名以上の大規模事件は2件(腸管出血性大腸菌O157および腸炎ビブリオ)あった。腸管出血性大腸菌食中毒は、大学施設内にある学生食堂を原因施設とする患者数445名の事例であった。本事例では調理施設の不備や従事者の衛生意識の欠如などにより、提供された生野菜等が腸管出血性大腸菌O157に複数日にわたって汚染され、被害が拡大したものと推定された。腸炎ビブリオ食中毒は、前述の「いかの塩辛」を含む仕出し弁当を原因とする患者190名の事例であった。
 ノロウイルスによる食中毒は、事件数27件(32.5%)、患者数898名(43.8%)であり、前年比はそれぞれ0.61および0.67で、過去5年間では平成16年に次いで少ない状況であった。二枚貝の直接関与が推定された事例は2件のみ(生カキおよびアサリ)で、調理従事者の手指を介した二次汚染が推定された事例が主体を占めた。また、患者数が100名以上の事件は1件で、社会福祉施設の給食による事例であった。
 化学物質による食中毒2件はいずれもヒスタミンによるもので、ブリおよびサンマが原因食品であった。植物性自然毒食中毒は、キノコ、動物性自然毒食中毒はフグによる中毒であった。その他1件は、アニサキスによるものであった。本事例では、魚介類販売業者が天然物のシロザケに寄生虫がいることを認識しておらず、刺身として客に提供したことが原因と考えられた。
 原因物質不明は1件のみで、原因物質判明率は98.8%と非常に高かった。

平成19年の食中毒発生状況

原因物質 全国 東京都
事件数(%) 患者数(%) 死者数 事件数(%) 患者数(%) 死者数
サルモネラ 126(9.8) 3,603(10.8) - 9(10.8) 93(4.5) -
黄色ブドウ球菌 70(5.4) 1,181(3.5) - 6(7.2) 52(2.5) -
腸炎ビブリオ 42(3.3) 1,278(3.8) - 3(3.6) 209(10.2) -
腸管出血性大腸菌 25(1.9) 928(2.8) - 7(8.4) 491(24.0) -
その他の病原大腸菌 11(0.9) 648(1.9) - 2(2.4) 78(3.8) -
ウエルシュ菌 27(2.1) 2,772(8.3) - 1(1.2) 4(0.2) -
セレウス菌 8(0.6) 124(0.4) - 1(1.2) 2(0.1) -
カンピロバクター 416(32.3) 2,396(7.2) - 21(25.3) 174(8.5) -
ナグビブリオ 1(0.1) 1(0) - - - -
ボツリヌス菌 1(0.1) 1(0) - - - -
その他細菌 5(0.4) 32(0.1) - - - -
細菌性総数 732(56.8) 12,964(38.7) - 50(60.2) 1,103(53.8) -
ノロウイルス 344(26.7) 18,520(55.3) - 27(32.5) 898(43.8) -
その他のウイルス 4(0.3) 230(0.7) - - - -
化学物質 10(0.8) 93(0.3) - 2(2.4) 32(1.6) -
植物性自然毒 74(5.7) 266(0.8) 4 1(1.2) 2(0.1) -
動物性自然毒 39(3.0) 89(0.3) 3 1(1.2) 1(0) -
その他 8(0.6) 20(0.1) - 1(1.2) 1(0) -
原因物質不明 78(6.1) 1,295(3.9) - 1(1.2) 13(0.6) -
合計 1,289(100) 33,477(100) 7 83(100) 2,050(100) -

 

微生物部 食品微生物研究科 食中毒研究室

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