東京都健康安全研究センター
東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2007年)

東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2007年)(第29巻、9号)

2008年9月


 

 2007年1月から12月に、東京都内で発生したウイルス性胃腸炎集団事例の患者ふん便について行ったウイルス検査成績と、検出されたノロウイルスの遺伝子型について紹介する。

 調査期間中に、都内で発生した食中毒疑いを含む胃腸炎集団事例(517事例)についてウイルス検索を実施した。ノロウイルスは厚生労働省通知法(平成15年11月5日付食安監発第1105001号)のリアルタイムPCR法、サポウイルスはOka らのリアルタイムPCR法(J.Med.Virol., 2006:78, 1347-1353)、A群およびC群ロタウイルスは市販のELISA法、RPHA法キットを用いて検査を行った。その結果、表に示すように277事例(53.6%)から胃腸炎起因ウイルスが検出された。ウイルス陽性事例中263事例(94.9%)からノロウイルスが検出され、このうち245事例はノロウイルスGⅡ、9事例はノロウイルスGⅠ、9事例からノロウイルスGⅠとGⅡが同時に検出された。このほかにサポウイルスが12事例、A群およびC群ロタウイルスがそれぞれ3事例と1事例から検出された。

 胃腸炎集団事例の施設別発生状況を見ると、飲食店が最も多く153事例(29.6%)、次いで家庭内90事例(17.4%)、高齢者福祉施設71事例(13.7%)、披露宴・法事等の会食施設68事例(13.2%)、宿泊施設55事例(10.6%)、保育園・幼稚園・小学校49事例(9.5%)、病院18事例(3.5%)、中学・高校・大学・社員寮等13事例(2.5%)であった。ウイルス陽性率が最も高かったのは病院(18/18事例:100%)における事例であり、次いで高齢者施設(65/71事例:91.5%)、保育園・幼稚園・小学校(44/49事例:89.8%)の順であった。ノロウイルスは例年と同様に、保育園から高齢者施設利用者まで幅広い年齢層の患者から検出されたが、ロタウイルスは低年齢の患者から検出された。また、サポウイルスによる胃腸炎の好発年齢層は低年齢中心と考えられてきたが、高齢者施設や宿泊施設等における集団事例の患者からも検出された。

 検出されたノロウイルスの遺伝子型は、ノロウイルスORF2N/S領域の塩基配列による系統樹解析に基づいて決定した。遺伝子型表記は、国立感染症研究所の微生物検出情報およびFields Virology の記載に準じて行った。ノロウイルスが検出された263事例のうち、119事例について代表株を選出して実施した系統樹解析結果を図に示した。遺伝子群GⅠはGⅠ/3,4,7,8,10の5種類、遺伝子群GⅡはGⅡ/1,2,3,4,6,9,10,13,17およびGⅡ.15の10種類に分類された。最も多かったのはGⅡ/4であり91事例(76.5%)、次いでGⅡ/13が10事例(8.4%)、GⅠ/8とGⅡ/2が2事例、その他の遺伝子型は1事例ずつ認められた。2006年と同様に2007年の主流となった遺伝子型はGⅡ/4であり、特に流行最盛期の1月、12月にはノロウイルス陽性例の大多数がGⅡ/4であった。しかし、流行規模が小さくなる春季にはGⅡ/13などの遺伝子型が占める割合が高くなった。また、9月には高齢者施設におけるヒト-ヒト感染事例からGⅡ/17、12月には法事の会食料理を原因とする食中毒事例からGⅡ.15が検出されるなど、検出報告が稀な遺伝子型の存在も確認された。

 2007年の感染性胃腸炎の流行ピーク時(51週)には定点あたりの患者数が20.99となった。GⅡ/4と型別された91株について系統樹を作製すると、2004年型の流行株は全く認められず、2006ヨーロッパa類似株が1株確認された他はすべて2006ヨーロッパb類似株であり、2006年と2007年の2年続いて主流行株は同じであったことが明らかになった。

 このため、遺伝子解析を実施しているN/S領域では異なる事例で塩基配列が完全に一致する場合も多数認められるようになってきた。従って、調理従事者と患者から検出されたノロウイルスの塩基配列を比較して感染経路を推定する際には、より詳細な型別が可能なORF2可変領域あるいはORF2全領域を対象として実施することが必要と考えられた。

 

胃腸炎集団発生のウイルス検索(2007年、東京)

 

  1月 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 合計
検索事例数 74 62 38 30 38 41 35 22 23 22 42 90 517
陽性事例数 57 43 26 14 7 15 5 2 2 4 28 74 277

ノロGI   3 3     1 1       1   9
ノロGII 56 36 18 14 6 11 1 2 1 3 26 71* 245*
GI+GII 1 2 3     1           2 9
サポ   2 1     1 3     1 1 3* 12*
A群ロタ     1   1       1       3
C群ロタ           1             1

*:同一事例から複数のウイルスが検出されたため、陽性事例数と一致しない

 

検出されたノロウイルスの遺伝子型の系統樹

 

微生物部 ウイルス研究科 林 志直 

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