東京都健康安全研究センター
性感染症病原体定点医療機関におけるHSVおよびHPV遺伝子検出状況(2007年11月〜2008年11月)

性感染症病原体定点医療機関におけるHSVおよびHPV遺伝子検出状況(2007年11月〜2008年11月)(第29巻、11号)

2008年11月


 

 感染症発生動向調査における性感染症(STI)の月別報告数をみると、東京都におけるSTIの報告数は全国平均に比べ著しく多い状況にある。このような状況を受け、東京都では2007年11月にSTI定点医療機関の見直しと追加指定を行った。これにより東京都におけるSTI患者定点医療機関は41定点から55定点に、STI病原体定点医療機関は1定点(婦人科)から4定点(婦人科、泌尿器科、肛門内科・皮膚科)に増設された。

 病原体検査対象疾患は、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症(性器ヘルペス)、尖圭コンジローマおよび膣トリコモナス症等とし、各定点に、1ヶ月あたり10検体程度を目安に対象疾患患者の患部スワブ、頸管スワブ、生検材料および尿等の採取を依頼している。検体の搬送には宅配便を利用し、細菌、クラミジアおよび寄生虫検査については当センター病原細菌研究科にて、ウイルス検査についてはウイルス研究科にて実施している。

 本稿では、2007年11月から2008年11月までに当センターに搬入された検体のうち、ウイルス性疾患である性器ヘルペス患者検体58件および尖圭コンジローマ患者検体53件(それぞれ疑い例を含む)の検査結果について報告する。

 性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって性器やその周辺に水泡や潰瘍等の病変が形成される疾患である。性器ヘルペス患者の患部スワブおよび頸管スワブからDNAを抽出した後、HSV遺伝子のglycoprotein D 領域に設計したHSV-1およびHSV-2のmultiplexリアルタイムPCR法を用いてHSV遺伝子の検出を行った。その結果、性器ヘルペス患者検体58件中11件(19.0%)からHSV-1遺伝子が、24件(41.4%)からHSV-2遺伝子が検出された(表1)。古くから性器ヘルペスの原因ウイルスとしてHSV-2が多いとされてきたが、今回の調査では、男性ではHSV-2型が多いものの(47.4%)、女性ではHSV-1型およびHSV-2型が同数検出され、女性におけるHSV-1型の感染例が比較的多いことが判明した。

表1.性器ヘルペス患者からのHSV遺伝子検出結果
(2007年11月〜2008年11月)

検査数 検出数 内訳
HSV-1 HSV-2
男性 38 23(60.5%) 5(13.2%) 18(47.4%)
女性 20 12(60.0%) 6(30.0%) 6(30.0%)
合計 58 35(60.3%) 11(19.0%) 24(41.4%)

 

 尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(HPV)6型や11型の感染により、生殖器とその周辺にイボ状の突起や、淡紅色ないし褐色の乳頭状、鶏冠状、あるいはカリフラワー状の隆起性の良性病変(コンジローマ)が形成される疾患である。尖圭コンジローマ患者の患部スワブまたは生検材料(コンジローマ切除片)からDNAを抽出した後、HPV遺伝子のL1領域を標的としたmultiplex PCR法を行い、特異バンドが検出された場合には塩基配列を決定し、遺伝子型別を実施した。その結果、53件中45件(84.9%)からHPV遺伝子が検出され、尖圭コンジローマの原因とされている低リスク型HPVが35件(66.0%)、子宮頸癌の原因とされている高リスク群HPVが8件(15.1%)、どちらの群にも分類されない未分類群HPVが2件(3.8%)検出された(表2)。低リスク群HPV(35件)の遺伝子型の内訳は、HPV6型20件(57.1%)、11型14件(40.0%)、40型1件(2.9%)であった(図1)。また、検出されたHPV遺伝子の分子系統樹解析を実施したところ、HPV6型については少なくとも2系統に分類されることが示唆された(図2)。

 今後も東京都内のSTI病原体定点医療機関におけるHSVおよびHPVを中心とした調査を継続し、東京都におけるSTIの実態を把握していくことが重要であると考える。

表2.尖圭コンジローマ患者からのHPV遺伝子検出結果
(2007年11月〜2008年11月)

検査数 検出数 内訳
低リスク群 高リスク群 未分類群
男性 41 35(85.4%) 29(70.7%) 4(9.8%) 2(4.9%)
女性 12 10(83.3%) 6(50.0%) 4(33.3%) 0(0.0%)
合計 53 45(84.9%) 35(66.0%) 8(15.1%) 2(3.8%)
 
図1.低リスク群HPV遺伝子型内訳 
 
図2.HPV6型のL1遺伝子系統樹 

微生物部 ウイルス研究科 長島真美

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