性感染症病原体定点医療機関における病原体サーベイランス
(クラミジア・淋菌)の検査状況と淋菌の薬剤感受性について(第30巻、1号)
2009年1月
感染症発生動向における性感染症(STI)の月別報告数を見ると、東京都におけるSTIの報告数は全国平均に比べ著しく多い状況にある。このような状況を受け、東京都では平成19年11月よりSTI定点医療機関の見直しと追加指定を行なった。これによりSTI病原体定点医療機関は4定点(婦人科2医院、泌尿器科1医院、胃腸科・皮膚科1医院)に増設された。本稿では、性器クラミジア感染症、淋菌感染症由来の検体について、平成19年11月から平成20年12月までの14ヶ月間の検査状況についてまとめた。
Chlamydia trachomatis 、 Neisseria gonorrhoeae はコバスアンプリコアによる核酸検査を行い、同時に N. gonorrhoeae 等の病原体の分離同定を行なった。分離された N.gonorrhoeae については、Etest(アスカ純薬)を用いて薬剤感受性を実施した。使用薬剤はペニシリン(PCG)、テトラサイクリン(TC)、シプロフロキサシン(CPFX)、セフォタキシム(CTX)、セフトリアキソン(CTRX)およびスペクチノマイシン(SPCM)の6薬剤である。
14ヶ月間に、男性305人、女性61人の検体が搬入された。患者は10才未満2人、10才代12人、20才代127人、30才代116人、40才代72人、50才以上37人であった。
検体数は、尿が239検体、病巣を擦過したスワブ127検体であった。診断名はクラミジア感染症237人、淋菌性尿道炎54人、尿道炎128人などであった。総計366人のうち C. trachomatis 核酸遺伝子陽性150人、 N.gonorrhoeae 核酸遺伝子陽性96人、 C. trachomatis 、 N.gonorrhoeae が重複して検出された人は48人であった。また、 N.gonorrhoeae 核酸遺伝子陽性96人中、62人から N.gonorrhoeae が分離された。その他 Neisseria meningitidis が2人から、 Streptococcus pyogenes が5人から分離された。 N. meningitidis の血清型は2株ともY群であった。 S. pyogenes の血清型はT11型、T12型、T13型、T28型、T5/27/44型が各1株であった。
N.gonorrhoeae 62株の薬剤感受性についてみると、PCGについては中等度耐性0.125μg/ml以上の株は40株(64.5%)であり、その内の1株は16μg/mlの高度耐性(βラクタマーゼ産生株)であった。TCは中等度耐性0.5μg/ml以上の株は34株(54.8%)、CPFXは中等度耐性0.125μg/ml以上の株は48株(77.4%)であった。CTX、CTRXおよび SPCMについては全て感受性であった。
表1.年齢別・男女別の検査数 (2007.11〜2008.12)
検査数 | <20才 | 20才代 | 30才代 | 40才代 | ≧50才 |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 5 | 94 | 100 | 69 | 37 |
女性 | 9 | 33 | 16 | 3 | 0 |
計 | 14 | 127 | 116 | 72 | 37 |
表2.年齢別の陽性数 (2007.11〜2008.12)
陽性数 | <20才 | 20才代 | 30才代 | 40才代 | ≧50才 | |
---|---|---|---|---|---|---|
核酸 | C.trachomatis | 7 | 67 | 42 | 23 | 11 |
N.gonorrhoeae | 2 | 41 | 30 | 16 | 7 | |
分離菌 | N.gonorrhoeae | 1 | 24 | 23 | 9 | 5 |
N.meningitidis | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | |
S.pyogenes | 0 | 2 | 1 | 1 | 1 |
表3.分離された N.gonorrhoeae 62株の6薬剤に対する感受性試験結果
PCG | TC | CPFX | CTX | CTRX | SPCM | |
---|---|---|---|---|---|---|
R | 1 | 4 | 48 | 0 | 0 | 0 |
I | 39 | 30 | 0 | 0 | 0 | 0 |
S | 22 | 28 | 14 | 62 | 62 | 62 |
R:耐性 I:中間 S:感受性