東京都健康安全研究センター
病原体レファレンス事業に基づく協力医療機関からの病原体収集とその解析結果(平成20年度)(第30巻、6号)

病原体レファレンス事業に基づく協力医療機関からの病原体収集とその解析結果(平成20年度)(第30巻、6号)

 

2009年6月


 

 当センターでは平成20年度から新規に「病原体レファレンス事業」を開始した。この事業は、医療機関等の協力を得て、都内で発生する感染症の病原体を積極的に収集し、病原体の性状や遺伝子を比較・解析することにより、同定に必要な性状、血清型、薬剤耐性、遺伝子変異等を監視することを目的としている。この事業の一環として、感染症法では収集体制が確保されていない病原体(表1)を対象とし、平成20年10月から平成21年3月までに都立病院8カ所(広尾、大塚、駒込、豊島、墨東、府中、清瀬小児、松沢)から送付された病原体は380株である。各病原体の解析結果は、以下のとおりである。

1.カンピロバクター

 カンピロバクター属菌として収集された菌株は83株で、その内訳はCampylobacter jejuni 78株(94%)、C. coli 4株(4.8%)、Helicobacter属菌1株(1.2%)であった。81株(97.6%)は糞便から、C. jejuni およびHelicobacter属菌の各1株は、血液培養で分離された。

 血清型別はC. jejuni を対象として、Lior法により行った。血清型は表2のごとく、型別不能の27株を除き15種類に型別された。型別率は78株中51株(65.4%)であり、検出頻度の高い血清型は、LIO 4: 16株(20.5%)、LIO 11:8株(10.3%)、LIO 28:5株(6.4%)であった。LIO 4の血清型は、集団食中毒事例においても検出頻度の高い血清型である。

 薬剤感受性試験は、KB法で行った。供試薬剤は、ナリジクス酸(NA)、シプロフロキサシン(CPFX)、テトラサイクリン(TC)およびエリスロマイシン(EM)の4剤である。C. jejuni およびC. coli において、いずれかの薬剤に耐性を示したものは、C. jejuni では44株(56.4%)、C. coli では4株(100%)であった(表3)。近年、C. jejuniおよびC. coliにおいては、ニューキノロン系薬剤に対する高度耐性(CPFX; MIC 4μg/ml以上) を示す耐性菌の増加が懸念されている。今回検討したC. jejuni では78株中27株(34.6%)、C. coli では4株中3株(75%)が耐性を示している。また、カンピロバクター腸炎治療の第一次選択剤であるEMに対する耐性菌は、C. jejuni では78株中3株(3.8%)、C. coli 4株中2株(50%)であった。

2.大腸菌

 大腸菌は248株で、そのうち毒素原性大腸菌(ETEC)が13株(5.2%)、ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)が2株(0.8%)であった。検出されたETECの血清型は、O169およびO25が各3株、O27、O159およびO6が各2株、血清型別不能が1株であった(表4)。O169を検出した1名は国内感染事例であったが、他は全てに海外渡航歴が確認された。VTECの2株はいずれも血清型別不能でVT1単独産生株およびVT2単独産生株であった。

3.サルモネラ

 サルモネラは15株で、最も多い血清型はS. Typhimuriumで5株、次いでS. Enteritidis 4株、S. Infantis 2株であった(表5)。米国では、2008年10月ごろより500名を越える患者と死亡者8名の大規模食中毒が報告されていた。原因菌はS. Typhimuriumで、原因食品はピーナツバターおよびピーナツバターを使った製品であった。日本でも当該のピーナツバター、ポップコーン、シリアル食品が輸入されていたため、当該品の販売中止・回収等が実施された(平成21年2月)。これらの食品に関連した食中毒患者の発生があるか否かを調べるためにS. Typhimurium についてPFGE解析を行った。その結果、今回搬入された株は、米国で分離されたS. Typhimuriumの PFGEパターンとは明らかに異なっており、米国の食中毒事例と関連が示唆されるような菌株は認められなかった。

  サルモネラ15株について、アンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、TC、クロラムフェニコール(CP)、ST合剤、NA、CPFX、オフロキサシン(OFLX)、ノルフロキサシン(NFLX)、ホスフォマイシン(FOM)、スルフイソキサゾール(Su)を用いた薬剤感受性試験を行った。その結果、9株は全ての薬剤に感受性であったが、6株は3薬剤以上に耐性を示す多剤耐性株であった(表6)。

4.エルシニア

 エルシニア2株は、いずれもエルシニア・エンテロコリティカ血清型O3群であった。

5.溶血性レンサ球菌

 溶血性レンサ球菌は19株で、その内訳は、A群レンサ球菌が12株、B群レンサ球菌が3株、F群レンサ球菌が1株、G群レンサ球菌が3株であった。

 A群レンサ球菌の12株はすべてStreptococcus pyogenesであり、T 血清型別及び発熱性毒素産生性(RPLA法)を調べた。T型別の結果、T12型:4株、T13型:2株、T28型:2株、T3型:1株、T4型:1株、型別不能:2株であった。発熱性毒素産生性は、B+C産生株:9株、B産生株:2株、A+B産生株:1株であった。

 B群レンサ球菌の3株の血清型は、Ib型:1株、型別不能:2株であった。

 F群レンサ球菌はStreptococcus constellatus、G群レンサ球菌の3株はいずれもStreptococcus dysgalactiae subspecies equisimilisであった。

6. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

 MRSAは6株で、すべて59歳以上の高齢者から分離された株である。コアグラーゼ型別とエンテロトシキン(SE)A〜EおよびTSST-1の毒素産生性を検討した結果、コアグラーゼ型は6株全てがⅡ型、毒素型は「SE:B+C」+「TSST-1」産生株が3株、「SE:C」+「TSST-1」産生株が2株、毒素非産生株が1株であった。

7. 髄膜炎菌

 髄膜炎菌は1株で、脳挫傷・外傷性くも膜下出血を呈した患者の鼻腔粘液から分離された。血清型はB群であった。

8. 百日咳菌

 百日咳菌は4株で、分離部位は、喀痰が1例で、残りの3例はすべて鼻腔であった。遺伝子型別であるMLST型別を行った結果、喀痰から分離された1株はMLST-4型、鼻腔から分離された3株はすべてMLST-1型であった。

9.その他

 腸炎ビブリオが1株は、血清型O8:KUT、神奈川溶血毒類似毒素(TRH)産生菌であった。 α溶血性レンサ球菌1株は、Streptococcus mutansで、感染性心内膜炎患者の静脈血から分離された株であった。

今後とも菌株収集・解析を継続的に実施し、感染症および食中毒対策の基礎資料を提供していく予定である。

 

表1. 対象病原体(平成20年10月?21年3月)

収集対象病原体 収集菌株数
カンピロバクター 83
大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く下痢症患者由来株) 248
サルモネラ 15
ビブリオ・バルニフィカス 0
エルシニア 2
リステリア 0
溶血性レンサ球菌(劇症型溶血性レンサ球菌を除く) 19
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(感染症由来株を除く) 6
髄膜炎菌(髄膜炎由来株を除く) 1
百日咳菌 4
その他 2
380

表2.散発患者由来 C. jejuni の血清型 (Lior法)

 

血清型 菌株数 (%)
LIO 1 4 (5.1)
LIO 4 16 (20.5)
LIO 7 3 (3.8)
LIO 10 1 (1.3)
LIO 11 8 (10.3)
LIO 16 1 (1.3)
LIO 19 1 (1.3)
LIO 22 1 (1.3)
LIO 27 2 (2.6)
LIO 28 5 (6.4)
LIO 36 2 (2.6)
LIO 102 1 (1.3)
LIO6/LIO50 1 (1.3)
TCK 1 1 (1.3)
TCK 12 4 (5.1)
UT 27 (34.6)
78 (100.0)

 

表3.散発患者由来 C. jejuni およびC. coli の薬剤耐性菌の出現頻度

  C. jejuni C. coli
供試菌株 78 4
耐性数(%) 44(56.4%) 4(100%)
耐性パターン:    
TC 16 1
EM 1 0
CPFX・NA 15 0
CPFX・NA・TC 10 1
CPFX・NA・EM 2 0
CPFX・NA・TC・EM 0 2

 

表4.検出された毒素原性大腸菌

血清群 産生毒素 検出数 渡航歴
O169 ST 3 タイ(2),国内(1)
O25 LT 3 中国,インドネシア,インド
O27 ST 2 インド,カンボジア
O159 ST 2 インド,バリ島
O6 ST & LT 1 スペイン・モロッコ
ST 1 インド
OUT LT 1 エジプト
合計   13  

OUT:型別不明

 

表5.サルモネラの血清型

O群 血清型 菌株数
O4群 Typhimurium 5
Derby 1
O7群 Infantis 2
Thompson 1
Livingstone 1
O8群 Litchfield 1
O9群 Enteritidis 4
合計   15

表6.多剤耐性サルモネラの血清型と薬剤耐性パターン

No. 血清型 薬剤耐性パターン 由来
1 Typhimurium TC,SM,KM,ST,Su 創部
2 Typhimurium TC,ST,CP,Su 糞便
3 Typhimurium TC,SM,Su 糞便
4 Infantis TC,SM,KM,ABPC,ST,Su 糞便
5 Infantis TC,SM,ST,Su 糞便
6 Derby TC,SM,Su 糞便

 

微生物部 微生物部 食品微生物研究科、病原細菌研究科

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します ご利用にあたって
© 2023 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.