東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(2008年)

コレラの発生状況(2008年)(第30巻、10号)

2009年10月


 

 我が国における発生状況

 コレラは感染症法の改正(2007年4月施行)で、2類感染症から3類感染症に変更された。患者及び無症状保菌者が届出対象(擬似症患者は対象外)である。なお、起因菌は、コレラ毒素産生性のO1血清型及びO139血清型コレラ菌と定義されている。

 国立感染症研究所感染症情報センターから報告(2009年5月7日現在)された、2008年の我が国におけるコレラ報告数は、45例(患者44例、無症状保菌者1例)で、推定感染地域は、国内23例、海外22例であった(表1)。死亡例の報告は無かった。

 国内23例は、男性9例、女性14例で、年齢群別では、30代1例、50代6例、60代8例、70代2例、80代6例であった。埼玉県から報告された10例中8例は、3〜4月に発生した同一飲食店が原因施設と推定された集団食中毒事例であった。また、8月に発生した宮城県での4例と埼玉県での1例は、国外産の冷凍生ウニが原因と推定された感染事例であった。分離コレラ菌の血清型は、O1小川型が22例(生物型はエルトール型21例、検査未実施1例)、O139が1例であった。O139は、6月に堺市から報告され、国内例では2006年の1例(広島市)に次いで2例目の報告であった。

 海外を推定感染地とする輸入22例は、男性12例、女性10例で、年齢群別では、10歳未満1例、20代4例、30代3例、40代5例、50代5例、60代3例、70代1例であった。推定感染国は、インド、インドネシア、フィリピンが各6例で多く、他はパキスタン2例、インド・ネパール1例、パキスタン・中国1例であった。分離コレラ菌の血清型は、全てO1(小川型21例、検査未実施1例)であった。また、生物型は、エルトール型17例、未実施3例、不明2例であった。

 世界の発生状況

 WHOの報告「WHO Weekly Epidemiological Record,84(31),2009」に基づき2008年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに発生を報告した国は前年より 3か国多い56か国、患者数は190,130名で、うち死者数は5,143名であった。前年に比べ患者数は6.8%増加、死者数は27.6%増加した。致死率(報告患者数に対する割合)は前年の2.27%から2.70%に上昇した。

 アフリカ大陸では、36か国から前年より7.6%多い患者数179,323名が報告され、これは世界全体の94%を占める。死者数は5,074名、致死率は2.83%であった。特に、ジンバブエでは全土的に蔓延し、患者数60,055名、死者数2,928名が記録された。その他、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ギニアビサウ及びスーダンからの報告が多く、この5か国でアフリカ大陸全体の74%を占めた。

 アメリカ大陸での報告は、カナダ(輸入1例)、米国(輸入4例を含む5例)、メキシコ(1例)からの計7名であった。中央及び南アメリカからの報告は無かった。1991年に初めて中南米に上陸、猛威を振るったコレラの流行は終息しているが、今後もサーベイランスや防疫に関して強力な地域参加体制を継続維持する必要がある。

 アジアにおける報告患者数は、前年より15%増の13,023名で、死者数は69名、致死率は0.64%であった。11か国から報告されており、多いのはアフガニスタン(4,384名)、インド(2,680名)、インドネシア(1,007名)、ベトナム(853名)であった。

 ヨーロッパからは、英国(8名)、オランダ(5名)、スペイン(5名)など6か国から計22名が報告されているが、いずれも輸入例であった。オセアニアからの報告は無かった。

 O139コレラ菌による発生は、中国とタイに認められた。中国では検査室で血清型別試験が実施された151例中49例、タイでは同じく435例中2例が血清型O139であったと報告された。WHOでは、O139コレラ菌は次期パンデミックの原因となる恐れがあるため、コレラ菌検査の際は、O1及びO139両血清型を対象とした試験を実施するよう奨励している。

 なお、WHOでは、世界で発生した62事例の急性下痢症集団発生の確認作業に関与、そのうち34か国の55集団事例はコレラと確認された。これらのうち、45集団事例はアフリカ大陸、10集団事例はアジアでの発生であった。

 コレラは多くの国で拡散防止の努力が払われてきているが、熱帯・亜熱帯地域の開発途上国などにとっては、今もって大きな脅威である。環境管理の改善、適切な経口ワクチンの使用など、効果的な公衆衛生上の介入策を実行に移すことが重要である。

 ここに述べたWHOからの公式報告数は、世界的なコレラの発生状況をよく示していると思われる。しかし、国あるいは地域によっては、未あるいは不十分な報告、また用いられているサーベイランスシステムの限界などもあって、実際の発生数を必ずしも反映したものではない

 

表1 我が国におけるコレラ発生状況

年次 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
輸入事例数 45(10) 45( 6) 38( 9) 29( 7) 20( 5) 74(10) 44(11) 37( 8) 9( 2) 22( 3)
国内事例数 6( 0) 12( 1) 12( 4) 20( 7) 3( 0) 11( 2) 11( 2) 8( 0) 4( 1) 23( 3)
合計 51(10) *58( 7) 50(13) *51(14) *24( 5) *86(12) *56(13) 45( 8) 13( 3) 45( 6)

                               ( ):東京都分再掲 *感染地不明を含む

表2 世界のコレラの発生状況(WHO報告より)

年次 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
報告国数 61 56 57 52 45 56 51 52 53 56
患者数 254,310 137,071 184,311 142,311 111,575 101,383 131,943 236,896 177,963 190,130
死者数 9,175 2,728 4,908 4,564 1,894 2,345 2,272 6,311 4,031 5,143
致死率(%) 3.61 3.58 1.48 3.21 1.70 2.31 1.72 2.67 2.27 2.70

多摩支所食品衛生研究科

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