感染症発生動向調査にみる呼吸器系感染症起因ウイルスの検出状況(2009年)について(第30巻、12号)
2009年12月
感染症発生動向調査は、1981年から全国で行われている調査事業で、1999年4月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されたことにより、感染症対策の一つとして位置づけられた。本事業は、感染症の発生状況の把握・分析と、その情報提供を行ことによって、感染症の発生及びまん延を防止することを目的としている。
2009年1月から12月末までの間に感染症発生動向調査検体として、都内の小児科、眼科及び基幹病原体定点より2,937件の検体がウイルス研究科に搬入された。内訳は咽頭拭い液(鼻汁、及び鼻腔拭い液を含む)1,946件、髄液490件、糞便315件、血液83件、尿50件、結膜拭い液42件、その他の検体(皮膚病巣、胸水等)11件であった。
このうち、呼吸器系感染症患者からの検体は1,339件と全体の約半数を占めており、その診断名別内訳はインフルエンザ(疑いを含む)740件、下気道炎268件、上気道炎197件、RSウイルス46件、マイコプラズマ25件、咽頭結膜熱44件、その他(口内炎、百日咳疑い等)19件であった。
これらの検体からの遺伝子検査による月別ウイルス検出状況を表1に示す。
季節型インフルエンザAH1亜型(ソ連型)並びにAH3亜型(香港型)検出は2月に、B型は3月にピークを迎え、6月にはこれら季節型インフルエンザの検出はほぼ収束した。新型インフルエンザウイルスについては4月末より検査を開始したが、7月17日に搬入された海外渡航歴のある不明熱性疾患患者の咽頭拭い液が本調査事業では最初の陽性検体となった。以降、新型インフルエンザAH1pdmの検出数は急激に増加し、10月をピークとする大きな流行が見られ、12月末日においても未だに流行中である。季節型インフルエンザは7月以降には8月、9月各1件検出されたのみで、10月以降検出されていない。
夏風邪の原因の一つとされるエンテロウイルスは、7月が検出のピークであった。また、初夏に検出されることの多いパラインフルエンザウイルスは、本年は7月に検出のピークが見られた。一方、毎年夏に検出のピークを形成するアデノウイルスは7月以降検出数が減少し、例年の様な流行は見られなかった。また、春と秋に流行のピークを形成するライノウイルス、秋から冬にかけて流行が見られるRSウイルスの検出は共に8月から12月に向かい緩やかな検出数の上昇は続いているものの、検出件数は少なく、例年の様な季節性の検出ピークは見られなかった。
本年の呼吸器系感染症起因ウイルスの検出状況においては、新型インフルエンザウイルス以外のウイルス検出数が、7月を境に減少する傾向が見られるが、これは新型インフルエンザウイルスの都内流行が、7月以降に本格的に始まり、新型インフルエンザを疑う検体が大量に搬入されたことによる影響も考えられる。本年の診断名別の月別検体搬入状況を図1に示す。
4月以降、新型インフルエンザの都内侵入を迅速に探知するため、インフルエンザウイルスの検査対象をインフルエンザ患者だけでなく、呼吸器症状一般(咽頭炎、扁桃炎、咽頭結膜熱、気管支炎、肺炎、クループ、RSウイルス感染症、マイコプラズマ感染症、上気道炎、下気道炎等)、急性熱性疾患、脳炎・脳症ならびにけいれん等の中枢神経系症状を呈する患者の検体にまで拡大した。そして、当該検体の検査には季節型および新型インフルエンザの遺伝子検査を併せて行った。
また、血液以外の検体についてはMDCK細胞を用いて分離試験を行った。
12月末までに、1,180件について新型インフルエンザウイルスの遺伝子検査を実施し、うち437件(37.0%)から新型インフルエンザ遺伝子を検出し、201株を分離した。新型インフルエンザが検出された検体の臨床診断名は、インフルエンザ(疑いを含む)399件(91.7%)、上気道炎9件(2.1%)、下気道炎22件(5.1%)、咽頭結膜熱3件(0.7%)、脳炎・脳症1件(0.2%)、不明熱1件(0.2%)であった。
また、本年はインフルエンザと診断された検体として、咽頭ぬぐい液(鼻汁を含む)710件、髄液27件、糞便2件、血液1件が搬入されたが、咽頭ぬぐい液以外の検体からはインフルエンザウイルスの遺伝子は検出されなかった。
表1.月別呼吸器系感染症起因ウイルスの検出状況(2009年,遺伝子検査成績)
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
新型インフルエンザAH1pdm 1647781348280
インフルエンザAH1亜型425524 1
インフルエンザAH3亜型15251331 1
インフルエンザB型2102362
エンテロウイルス28911202221593720241013
パラインフルエンザウイルス 22028
アデノウイルス24212727232932712151120
ライノウイルス159181711128314232233
RSウイルス231 1131721119
図1.診断名別呼吸器系感染症関係の検体搬入状況(2009年)
微生物部 ウイルス研究科 感染症研究室