東京都健康安全研究センター
東京都における新型インフルエンザウイルス抗体保有状況

東京都における新型インフルエンザウイルス抗体保有状況(第31巻、1号)

2010年1月


 

 東京都における流行予測調査事業で2009年7月〜10月の間に採取された都民の血清344件について新型インフルエンザに対する抗体保有状況調査を行った。このうち調査票により年齢が明らかな338件について解析を行ったので報告する。

 抗体の測定は、新型インフルエンザワクチン株であるA/California/07/2009株抗原を用いたHI抗体価測定法により行い、調査票に記入されている年齢を用いて0-39歳までを5歳毎に、40-59歳を10歳毎に、60歳以上を1つのグループに分類し、年齢階層別の抗体保有状況について解析をした。その結果、10倍上の抗体保有に関して0-4歳までのグループは、1.2%とほとんどが抗体を保有しておらず、5-9歳のグループは4.3%が抗体を保有しているに過ぎないことが判明した。

 また、季節性インフルエンザでは抗体保有率の高い10-14歳の学童グループでは23.8%と低率な保有状況であった。一方、15-39歳までの年齢階層では40%以上の抗体保有が見られており、最高は15-19歳グループの67.6%、次いで30-34歳グループの50%、20-24歳グループの42.9%、25-29歳グループの41.7%、35-39歳グループの40.0%と続いている。また、流行当初に唯一の抗体保有階層として報道された60歳以上のグループの保有率は35.7%であり、40-49歳グループ(39.3%)や50-59歳グループ(37.5%)と同様に高い抗体保有率ではなかった。

 さらに、感染防御効果があるといわれる40倍以上の抗体価を半数以上保有していた年齢階層は15-19歳(52.9%)のみであり、次いで35-39歳(40%)、20-24歳(35.7%)、30-34歳(30.0%)がわずかに高く、それ以外の年齢階層は25%以下であった。

 新型インフルエンザウイルスAH1pdmは、人類が初めて遭遇するインフルエンザウイルスであり、全てのヒトが全く抗体を持っていないこと等が2009年の発生当初から言われていたが、15歳以上の年齢を中心とした多くの大人が抗体を保有していたことが明らかとなった。

 これにはウイルス自体が全く新しいウイルスであることから、過去に発生したウイルスとの抗原性の類似による交差反応として抗体価に反映されたこと、都内での発生後に検体が採取されたことから感染または暴露による抗体獲得例を含んでいることが推察された。

 また、これらの血清338件中のA/California/07/2009株(ワクチン株)に対する10倍以上の抗体保有率は全体で26.3%、40倍以上の抗体保有率は16%と低く、既存の抗体獲得率は十分ではなかったが、このような抗体保有によって、10歳以下の年齢階層に比べ青年層以上(15歳以上)での患者発生が抑制されていた可能性も推察された。しかし、今後、ウイルスのヒトでの馴化が進むと幅広い年齢層での患者が発生することが懸念されるため注意が必要である。

 

表 A/California/7/2009株(A/H1N1pdmワクチン株)抗原を用いたHI抗体測定

年齢階層 HI抗体価 抗体保有率(%)
<10 10 20 40 80 160 320 640 1280 2560 5120 10240 10倍以上 40倍以上
0-4 83 82         1             1.2 1.2
5-9 47 45     1 1               4.3 4.3
10-14 42 32 1 3 6                 23.8 14.3
15-19 34 11 3 2 15   2 1           67.6 52.9
20-24 14 8 1   3 2               42.9 35.7
25-29 24 14 2 4 4                 41.7 16.7
30-34 10 5   2 2   1             50.0 30.0
35-39 10 6     4                 40.0 40.0
40-49 28 17   4 7                 39.3 25.0
50-59 32 20 7 2 2     1           37.5 9.4
60- 14 9 2 2   1               35.7 7.1
合計 338 249 16 19 44 4 4 2 0 0 0 0 0 26.3 16.0

微生物部 ウイルス研究科 エイズ・インフルエンザ室

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